ホラー・ミステリー系小説の短編集で間違いなくおもしろい3冊

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おもしろい短編小説3冊

僕は短編小説が好きなので、いつも本屋では短編小説集を探してしまいます。

長大化傾向にある長編小説とは違い、ワンアイデアで勝負する短編集は、作家の知恵とアイデアがつまった小さいけれどぎゅっと旨味のつまった美味しい掌編だと思います。

最近読んだ短編集の中から、ホラー系とミステリー系の絶対に間違いなくおもしろい3冊をご紹介します。

本多孝好『at home』を読んで「家族は血じゃねえ、絆だな」と思う。

at Home (角川文庫)

本多孝好の小説「at home」を読了。「日常の謎系ミステリー」を中心とした短編集でして、粒ぞろいなストーリーがつまった良書でございます。なかでも好きなのは、やっぱり表題作の「at home」。「家族」ってものを改めて考えされられるお話です。

偽物家族が本物家族になった日

「at home」は、ちょっと変わった家族小説です。

主人公は16歳の僕とその家族。父親と母親、高校生の妹と小学生の弟。

何の変哲もない家族のように見えますが、この5人、一人として血のつながりはありません。

それぞれが、家庭内暴力や虐待、大切な人の死や別れを経験して一人ぼっちになり、

何の因果か巡り会い、「偽物の家族」として集団生活をするようになった「他人」達です。

しかし、その人間的結びつきは、通常の家族と同等、それ以上であり、

ある種「固い絆」で結ばれています。

この家族、主な収入は、父親の「空き巣」と、母親の「結婚詐欺」によってまかなわれています。

主人公の僕も「偽札や偽造パスポートも作る」印刷所に勤務中。

なかなか危ない橋を渡りながらも、平穏に暮らしていたのですが、ある日、事件が。

母親が狙っていた結婚詐欺のターゲットが「同業者」だったことから、

母親は監禁され、身代金を要求されます。

これは大変!

僕と父親は母親救出のために奔走しますが、

結果的に父親は、「同業者」を殺害してしまうのです。

感涙ポイントはラストにやって来る

ここまで相当ネタバレしていますが、もちろん最後までネタバレです。

父親は大人しく服役し、刑期を全うして出所します。

迎えに来たのは28歳になった僕。

彼らは父親が逮捕された後も、「偽物の家族」を続けていた。

逮捕前に父親が「つい持って来てしまった掛け軸」が高値で売れた事で、妹と弟の学費を工面し、

僕自身は「普通の印刷所」に就職していた。

さらに、僕は結婚し、今度、子供が生まれるというのです。

当然、父親は喜びます。

殺人者のオヤジがいても、結婚してくれたという奥さんに土下座をして感謝しますが、

実はその奥さんというのは、かつて「妹」として暮らしていた明日香だったのです。

つまり、以前は「偽物の家族」の中で兄と妹だった二人が、結婚して、子供が生まれるということですね。

確かに、これだけ「普通ではない過去」を持っていると、もはや、本当に「普通の生活」に戻ることはできないでしょう。

真実が露見することにおびえながら生きるなら、このまま「偽物の家族」を継続し、「本物の家族」へと昇華させた方が、理にかなっています。

結局のところ、「家族」というのは、血のつながりだけではないのかも知れません。

相手を思いやる気持ち、何よりも大切にする心がなければ、血のつながりなんてゴミに等しいということです。

僕と明日香は、父親を迎え入れ、全員でゼロからスタートすることを宣言。

家の中に入った父親に「ずっと言いたかった言葉」を伝えます。

「おかえりなさい、お父さん」

父さんが僕らの顔を見回し、頷いた。

「ただいま」

「at home」は映画にもなっていますね。

父親は竹野内豊、母親は松雪泰子。

これは「短編小説」を映画化したものなので、もしかしたら期待できるかも知れません。

米沢穂信「満願」感想ネタバレ 文句無しに面白い。読んで損なし短編集

満願

【書評】米沢穂信「満願」感想ネタバレ。久しぶりに「いやあ、面白かった」と素直に思える幸せな読書タイムを提供してくれた米澤穂信の短編集「満願」。さすが、各種ミステリーランキングでトップをとっただけあって、どれも読み応えのある完璧な短編集でした。

米沢穂信の傑作短篇集は、ミステリー好きなら読まなきゃ損

作家・米沢穂信の作品はいくつか読んでいたが、いまいち琴線に触れることがなく、少々「苦手な作家」でした。

しかし、この「満願」に関しては、このミスをはじめ、各種ミステリーランキングで激賞されていたし、

しかも短編集ということで、自称・短編小説家としては読まないわけにはいかないなと思っていました。

ようやく時間が出来たので、読み始めると、まさに一気読み。

最初から最後まで、どのお話も途中で飽きさせない見事なストーリーテリングは、さすが評価されるだけあるなと思わせる完成度でした。

各エピソードを簡単にご紹介

1.「夜警」

交番勤務のベテラン警察官の元にやってきた新人は、ちょっと危なっかしい「警察官には向かない人種」だった。

主人公の心配は現実のものとなり、新人は事件の犯人を射殺した挙句、殺されてしまうのだが、

そこにはある秘密が隠されていた。

2.「死人宿」

自分の心ない言動が元で行方不明となったもと交際相手は、山奥の温泉宿で仲居になっていた。

彼女を追ってきた男は、その宿が自殺の名所である「死人宿」と呼ばれていることを知る。

その晩、彼女から「死のうとしている客がいるかもしれない」と相談された男は…

3.「柘榴」

主人公の女性は、中学生の姉妹をつれて、働かない夫と離婚する決意をする。

親権争いは間違いなく母親側が勝つと思われたが、まさかの事態が起こって…

4.「万灯」

総合商社に勤める主人公は海外を飛び回り、バングラディッシュで天然ガス田を開発するという困難なミッションに挑んでいた。

説得に応じない原住民のリーダーを排斥するため、彼を殺すことを決意した主人公はついに…

5.「関守」

売れないフリーライターは、都市伝説ものの企画を依頼され、取材のために伊豆のある峠を訪れる。

そこにある古ぼけたドライブインで老女の話を聴き始めた主人公は、その街道で起こる不可解な自動車事故の真実に迫るのだが…

6.「満願」

司法試験に合格して弁護士となった主人公が初めて手がけた殺人事件の容疑者は、

かつて学生時代に下宿をさせてもらっていた家の女将さんだった…

ベスト1エピソードを選ぶとしたら…

どれも完成度が高く、ベスト1を選ぶことは出来そうにありません。

ただ、ランキングにするとすれば、

1.万灯

2.柘榴

3.関守

でしょうか。

1.万灯は、TBSがドラマ化しそうな商社マンが主人公のビジネス小説のような体裁で、海外勤務で奔走する主人公の努力と苦悩を描きます。

ただ、主人公がガス田計画を実現させるために、計画に反対する住民のリーダーを殺してしまってから、急転直下のサスペンスへと転じます。

泥沼にはまっていく主人公が、最後の最後にはまってしまった悲劇は、やはり殺人という大罪による罰なのかも知れません。

2.柘榴は、「女」というイキモノの恐ろしさに背筋が寒くなる作品。

3.関守は作品全体を通して、稲川淳二が語りそうなホラー感満載で、いつこの老婆が化物になって襲ってくるのかとびくびくしながら読みましたが、

最後の種明かしとどんでん返し、そして老婆の言葉には戦慄が走ります。

とにもかくにも、大満足の一冊。

短編集としてもはや完璧です。

こういう作品を私も書きたい。

ただひとつ文句をつけるとすれば、「死人宿」もせっかくだから漢字二文字のタイトルにして欲しかった。

例えば「死宿(しじゅく)」とかね。

【書評】「ミサイルマン」平山夢明は、完全なる種明かしがないから怖い。

ミサイルマン (光文社文庫)

ミサイルマンは、キチク系作家として名高い平山夢明氏の短編集。

平山氏は「独白するユニバーサル横メルカトル」で2006年の日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞。同じく、2007年度『このミステリーがすごい!』国内部門で1位に輝いている。

SF、ホラー、怪談、ノワール なんでもありの平山ワールド

本書は、表題作他、7つの短編で構成されている。

それぞれ、SF、ホラー、怪談、ノワールとジャンルがバラバラでバラエティに富んでいる。

共通するのは、時にグロテスクで痛々しくもある暴力と精神の奥底でガラスの板に爪をつきたててキーっとやるかのような神経を尖らせる恐怖。

キチク系作家と異名を取るだけあって、その辺は他の追随を許さない「はっちゃけ感」が満載である。

全7編の一言レビュー

1.テロルの創世

昭和を思わせる世界で生きる一人の少年と軍人の奇妙な交流を描いたSF。

主人公を含めるその世界に住む子供立ちはオンブルと言われる存在。

オンブル=影はリュミエールと呼ばれる「人間」から生み出されたクローンであり、少年達はある年齢に達すると、それを伝えられる。

なぜ「テロルの創世」というタイトルかというと、それは主人公の少年のリュミエールが誰かという点に秘密がある。

2.Necksucker Blues

幼少期に母親によって顔に熱した油をかけられ、怪物のような顔で生きることを余儀なくされている主人公。

彼は知り合いから「あんたのような醜い男を好きな美人がいる」という話を聞き、あるバーを訪れる。

そこで出会ったブルーという絶世の美女が、彼の人生を大きく狂わせる。

物語の鍵を握る美女「ブルー」のキャスティングをするなら、小生は菜々緒を推す。

3.けだもの

ゴシックファンタジーのような雰囲気の物語だが、舞台は現代っぽく、登場人物も日本人っぽい。

主人公・テオの年老いた父親は、400年生きた人狼。テオ自身は人狼の血を呪いによっておされられている。

ある日、テオの一人娘が惨殺される事件が発生し。テオは父の特殊な能力を借りて犯人を追う。

4.枷(コード)

主人公の俳優にはある秘密があった。彼は、ある特定の「枷=コード」に当てはまる女性をさらっては、拷問し、殺害していた。その目的は、彼女たち死の間際に見せる奇跡の現象「顕現」を発生させることにあった。

グロテスクな痛い描写が続くので、その手の話が苦手な方はご用心を。

5.それでもお前は俺のハニー

ろくでなしの主人公が出会ったのは娼婦のエミ。彼女の家には、無数の電話が置かれていて、彼女はある人物からかかってくるはずので電話をずっと待っていた。しかしエミは、自らの鼓膜を潰していて、何の音を聞くこともできないという。

あやまちを犯した女が追い求めたものは、いったい何なのか?

6.或る彼岸の接近

リストラされ、タクシードライバーとして再起を目指す主人公は、妻と幼い息子を連れて、ある訳あり物件に引っ越してきた。その家は、庭の隅に誰のものかわからない墓地があった。彼らは気にせずそこに住み始めたが、やがて少しずつ、妻の様子がおかしくなっていき….

得体の知れないこと、が与える恐怖を感じられる1編。

7.ミサイルマン

女を物色しては容赦なく殺害し、顔の皮を剥いで打ち捨てる。そんな鬼畜な所業を続けた二人組の男に訪れた、最悪の結末。

おすすめ作品「或る彼岸の接近」は、なんだかよくわからないからこそ怖い

おすすめは、普通の人間がある日、異世界に迷い込んでしまう怪談ホラー「或る彼岸の接近」。

五十間近の主人公は、勤めていた会社をリストラされ、なんとかタクシードライバーの職を見つける。

新しい家を探していた主人公と妻、息子は、ひょんなことからかつて画家が住んでいたという邸宅を格安で借りる事になる。

安い理由は、家の片隅にある所有者がはっきりしない「墓のようなもの」。

「気にしない」という妻の言葉に、主人公はこの家に住むことを決まるのだが、当たり前のように恐ろしいトラブルが待っている。

少しずつ、少しずつ狂っていく妻。慣れない仕事、生活で主人公も家を空ける時間が多くなる。

やがて、妻の奇行はエスカレート、そしてつぶやいた。

「わたし、あの子を殺すんだって」

この物語のキモは、「すべての謎を解かない、現象の理由を説明しない」ということだろう。

終盤には、化物めいたものが主人公の家に集い、狂った妻を担ぎ上げて、儀式のようなものを始める。

しかし、それについて明確な理由や謎の説明はされない。

完全なる種明かしは存在しないのである。

当然、家の片隅にある墓のようなものが関係しているのだろうとは推測できるが、わかるのはそこまでた。

人間は「わからないもの、想像を超えるもの」に対して、驚異や恐怖を覚える。

想像や妄想によってかき立てられた恐怖は、頭の中で増大する。

ホラーの基本は、「すべてを明かさないこと」。

それは「すべての謎を解き明かす」ことを目的としたミステリーとは、また異なるエンターテインメントである。

平山夢明の短編集「ミサイルマン」。

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