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小説「対岸の彼女」角田光代 感想・ネタバレ・レビュー ある女性の人生から学ぶ「信じること」の強さ

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kawa

『対岸の彼女』は第132回直木賞を受賞した角田光代の長編小説である。

物語は、異なる時代に生きる2組の女性を交互に描く。

 

過去と現在の葵に変化をもたらしたもの

東京で孤独な専業主婦生活を続ける小夜子とベンチャー企業社長のやり手女社長である葵。

「現在」から十数年前、群馬の片田舎でぱっとしない青春を送る高校生の葵とナナコ。

どちらの物語にも出て来る葵は、同一人物であるが、その人物描写から感じる人物像はあまりにも違う。おとなしく引っ込み思案で友達がいない。中学に入っていじめにあい、母の故郷である群馬に引っ越しを余儀なくされた少女・葵。

方や、行動的でおしゃべり、恐れるものは何もないといわんばかりに仕事に没頭するベンチャー企業社長の葵。

読み進めて行くうちに、やはりこの2人は同一人物なのだとわかるが、そのギャップに驚かされる。

 

高校時代と現代で、葵はそれぞれ、深く関わることになる女性がいる。

高校時代にであったのがナナコである。初対面でいきなり親しげに話しかけて来たナナコに対して、葵は「変な人なのかもしれない」と思ったが、クラスのどのグループにも属さないナナコと次第に親密な関係になっていく。

 

現代。

プラチナプラネットという小さな旅行会社の社長になっていた葵が出会ったのが、小夜子である。

映画の配給会社に勤めていたが、結婚と同時に退職、三歳になる女の子の母親だ。今は専業主婦だが、人と接するのがいまいち苦手で、娘をつれて公園にいくのも「気が重く」なるほど。うまく子供達の輪に入れない娘の姿を「公園のママ仲間に馴染むこと」のできない自分と重ね合わせて悩む。

本作の主人公は、この小夜子である。

読み進めて当初感じる違和感は、過去の葵と現在の葵のキャラクターに大きな違いがあることが原因だ。高校生の葵は、暗く、うちに引きこもりがちな少女で、むしろ小夜子に近い。

対して、現代の葵は、猪突猛進型のちょっと変わった人というキャラクター。これは高校時代の友人であるナナコとイメージが重なる。

このギャップの内側にある「どのようして過去の葵は、現代の葵へと変貌したのか」という部分にある謎を解く事が、本作を読み解く醍醐味となるだろう。

ナナコと過ごした日々が変えた葵の人生

葵の人生を変えたのは、間違いなくナナコである。

それはまさしく「人生の方向転換」とでもいうべき大転換だった。葵はナナコと出会い、過去の自分と決別していく。

夏休みに2人で行ったペンションでのアルバイトをきっかけに、それまでギリギリのところで保たれていたバランスは崩れて行く。

アルバイトで得た金や街で出会った男達の「ある種の行為」を食い物にして、2人は目的地のない旅を続ける。

それは社会的通念でいえば、単なる「不良化した少女の危険な火遊び」でしかなかった。事実、旅の末にたどりついた「安易な自殺未遂事件」によって、2人はマスコミから付け狙われ、ワイドショーのネタとして消費される。

2人は当然のようひ「大人の手」によって引き離される。それでも葵はナナコを求め、父の手を借りて、ようやく念願の再会を果たす。

「19歳の誕生日」にプレゼントを贈り合う約束をして、2人は離れ離れになる。

 

ナナコとの出会い、過ごした日々の中で少しずつ強くなっていった葵は、学校に戻り、やがて大学に進学し、「友達が出来」、「恋人のような男友達」もできた。しかし、「どうしても葵は彼らに心をゆるすこと」ができなかった。

その葵を決定的に変えたのが、大学3年の時に行った南アジアへの旅行である。

そこで「ナナコ」の名前を出されたあげくケチな強盗に騙され、自分が「人は親切にしてくれるものだ」と信じきっていたことに気がつく。そして、葛藤の末、人を、人の心を、優しさを「信じる」ことを決めた。

ここが葵にとって、人生のターニングポイントとなった。

 

「信じる事」を決断した人間の強さ

「信じるんだ。そう決めたんだ。だから、怖くない」

葵は「信じること」で世界を変えた。見知らぬ男に声をかけヒッチハイクで旅を続ける。葵の人生という「旅」はそれからも続いて行く。

このある意味「弱肉強食」の世界において「人を信じる」というのは勇気がいることであり、当然、リスクもある。騙されることもあるし、裏切られることもある。だが、そういったリスクを抱えながらも人を「信じる」ことができれば、我々は一人で何かを成そうという時よりも多くの力を得る事ができるはずだ。

 

葵は大学を卒業すると、「旅行会社」を作って仕事を始める。いわゆるベンチャー企業の走りだろう。都会の真ん中で社会に出たばかりの若者が会社を興すのは用意ではない。それこそ「信じる力」を使って、多くの人の助けを借りなければ、スタート地点にさえ立てなかっただろう。

それは仲間を信じる事、取引相手を信じること、お客を信じること、そして何より自分を信じることだ。

「私ができないなら人に頼めばいい。彼らのできないことで私に出来ることだってあるはずなのだから」

それは主人公である小夜子にも当てはまる。

彼女は子供を抱えて専業主婦というカラに閉じこもり、「人と関わることが煩わしく」そして怖かった。

そこから脱出するためにともがいた結果「仕事をすること」を選び、葵と出会った。一度は決別した2人の関係だったが、小夜子は家事育児を第三者が手伝ってくれる「ファミリーサポート制度」を利用し、プラチナプラネットに復帰しようと葵を訪ねて来る。

「知らない人と関わるのが煩わしくて調べようともしなかった」のに「思い切って登録」してみると「何を怖がってたんだろうって思うくらい簡単な、当たり前のことだった」と何かを吹っ切った様子の小夜子。彼女は他人を信じようと思った。そして、もう一度、葵を信じたい、信じなければならないと強く思った。

 

川の対岸に立ち、それぞれの人生を見物し合っていた2人はやがて、川にかかった「信頼」という細く、しかし強固な橋を渡って一つになる、寄り添って人生を歩んで行く。

 

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