巻数の少ないマンガには名作が多い。
これは小生の持論である。
ついに実写映画化された名作「寄生獣」しかり、暗黒青春マンガの傑作「ヒミズ」しかり、浅野いにおの出世作「ソラニン」しかり、オノ・ナツメのデビュー作「ノットシンプル」しかりである。
ミュージアムは巴亮介氏がヤングマガジンにて連載した全3巻のサスペンスマンガである。
巴氏は
昭和58年12月6日生まれ。 神奈川県横浜市出身。 第61回ちばてつや賞ヤング部門において、『GIRL AND KILLER─オンナと殺し屋─』で大賞受賞。同作にて2009年ヤングマガジン第53号にてデビュー。【参照:ヤングマガジンホームページ】
であり、連載デビュー作がこの「ミュージアム」となる。
本作は「私刑」をテーマにしたサイコサスペンスだ。
目次
カエル男による猟奇的連続殺人事件と一人の刑事
主人公・沢村は捜査一課の刑事だ。
仕事人間で家庭を顧みず、妻と子供に出て行かれたばかり。
非番の日に呼び出されたのは古い廃ビルで起きた殺人事件現場だった。
被害者の上原あさ美は、ビル内に監禁された後、腹を空かせた犬を放たれ、その犬に生きながら食い殺された。
犬の胃袋から「ドッグフードの刑」と書かれた紙が見つかる。
第二の被害者は、堤優一。
母親と二人暮らしのひきこもりニートだ。
マンションに現れたカエルのかぶりものかぶった雨合羽の男によって拉致され、体を少しずつ切り取られる。
男の手に噛み付く抵抗を見せるが、最後は頭を輪切りにされて絶命した。
残されていたメッセージは「母の痛みを知りましょうの刑」だった。
第三の被害者は、裁判官の小泉勤。
たてに半分に切り裂かれ、自宅と愛人の会社にそれぞれ宅配された。
メッセージは、「均等の愛の刑」だった。
被害者の意外な共通点
三人の被害者に共通するのは、「幼女樹脂詰め殺人事件裁判」の関係者であるということだった。
「幼女樹脂詰め殺人事件」とは、当時四歳の少女が行方不明になり、後日、プラスチック製品に使われる樹脂素材で固められ発見されたという陰惨な事件だ。
警察は、被害者宅の近くに住み、児童買春の前科がある大橋茂に目をつける。
大橋は、プラスチック工場に勤務し、ウレタン樹脂を扱っていた。
任意同行の上、取り調べた結果、大橋が犯行を自供した。
裁判員裁判で死刑判決が出た後、持病の精神病が悪化して警察病院へ入院。そこで首をつって自殺した。
殺された上原と堤はその裁判員、小泉は担当裁判官だった。
そして、沢村の妻も、その事件の裁判員だったことが判明する。
事件は単なる殺人事件から、「沢村自身の事件」に
奇妙な猟奇殺人事件は、沢村にとって本当の意味で「自分の事件」となった。
家族に危険が及ぶ可能性が高まったことで、沢村は焦るが、身内が事件関係者である沢村は捜査から外される。
捜査本部を離れて単独で動き始めた沢村は、妻との共通の友人である秋山佳代が自宅に二人をかくまっている事実をつかむ。
しかし、その部屋にはすでに犯人である「カエル男」が侵入しており、妻と子供は拉致されてしまう。
それに気づいた沢村は、カエル男の車を追いかけるが、もう少しのところで取り逃がしてしまう。
沢村には謹慎が言い渡された。
同じく裁判に関わっていた女性裁判官の瀬戸内、裁判員の真矢も殺害されているのが発見される。
追い詰められた沢村は、後輩刑事の西野をファミリーレストランに呼び出し、捜査資料を持ちださせた。
本部は死んだ大橋への怨恨の線で捜査を進めていたが、大橋は天涯孤独の身で復習を企てるような人物が見当たらない。
沢村は、この連続殺人に、「樹脂詰め殺人」と同じ匂いを感じる。
大橋は冤罪であり、今回の事件の犯人と「樹脂詰め殺人」の犯人は同一人物なのではないか?
窓際の席で議論する二人、降り続く雨。
ふと沢村が外を見ると、そこに雨合羽を着たカエル男が立っていた。
逃走したカエル男を追う西野と沢村だが、先行した西野が雑居ビルの屋上でカエル男に拘束される。
西野はビルのふちに追い詰められている。
カエル男の手には、拳銃が握られていた。
「僕は表現者だよ。人を楽しませるアーティストだ」とカエル男は語る。
そして、この連続殺人の犯人は自分であることを認め、幼児樹脂詰め殺人=自分の作品であるはずが、大橋茂という別人の仕業だと誤認されたことに怒り、一連の犯行を行ったと自供した。
やがて雨はやみ、太陽が雲の合間から顔をのぞかせた。
「おめでとう、2階級特進だ」
そういってカエル男は、西野を突き飛ばした。
めいいっぱい伸ばした沢村の手も届かず、西野は死んだ。
カエル男は、姿を消した。
映画「セブン」を想起させるひとつながりの殺人
ある共通性を持って行われる連続殺人と奇妙なメッセージというストーリは、サイコサスペンスの名作「セブン」を思い起こさせる。
刑事としては優秀な男・沢村
家庭では妻と息子に逃げられ散々な目にあっているダメ夫であるが、刑事としては優秀なようだ。
上司にも一目置かれ、後輩にも慕われている。現場での観察眼、状況を正確に把握する知力、そして確かな犯人像を導き出す推理力を持つ。
自分の家族が巻き込まれた事により冷静さを失ったが、本来は極めて優秀な刑事と言えるだろう。
変身した異形の殺人者・カエル男
連続殺人の犯人。
カエルのマスク、レインコート、長靴をはき、必ず雨の日に変更を行う。
幼女樹脂詰め殺人の真犯人であり、自分の犯行を「作品」と称し、それを総じて「僕のミュージアム」であると語る。
殺された裁判員たちの素性や秘密の詳細まで調べつくし、それをネタに「私刑」と称した殺人を行っていることから、相当の情報調査能力を有していると考えられる。もしくは、専門の捜査機関を利用できるだけの財力を持った人間なのかも知れない。
ついに、妻子をカエル男の手に渡してしまった沢村。加えて、後輩の西野までもが犠牲になってしまった。
かわいがっていた未来ある若者の命を絶ってしまう原因を作ったという罪が、沢村をさらに追いつめる。
大胆な犯行を続け、警察を挑発するカエル男の正体は?
戦慄の「ミュージアム 第2巻」へ続く。
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いずれも、「ミュージアム」が面白かったというマンガファンには自信をもっておすすめできるサスペンス&ミステリー系マンガとなります。
詳しくレビューしておりますので、ネタバレをしたくない方は閲覧にご注意を。
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コメント
グロテスクで言うならSAWに近いでしょうか
戦車様
コメントありがとうございます。
確かに殺し方の残忍さという点では、SAWに通じるところはあると思いますね。
実写ではない分、いく分かマイルドな表現になっているかもしれませんが。