神紅堂書店

人生をちょっと楽しくする無秩序コラムブログ

コンテンツ 本と映像 漫画

<完結>黒川の理想、溝口の希望、井上の変心 マンガ「マンホール」<下巻>感想ネタバレ27話〜最終話

更新日:

マンホール 下巻

脳を食い荒らす新型フィラリアを蚊に媒介させ、爆発的な感染を引き起こそうというバイオテロを画策した男を追う刑事を描いた物語「マンホール」の最終話ネタバレレビュー。

マンホール<下巻>27話「アウトブレイク」

喜多嶋は黒川を分析する。

黒川は、笹原市から近い槇野市で起きている未解決の凶悪事件としてこの連続放火犯をターゲットに選んだ。放火は地域性の高い犯罪であり、犯人も周辺地域で生活している確率が高い。

黒川は、動物を使ってフィラリアの人為的なアウトブレイクを引き起こすことで「放火犯を含む市民全員」を集団感染させようとしている。

もし、放火犯が槇野市に住んでいれば、間違いなく感染する。当然、他の住民も巻き添えになるが、フィラリアの致死率はゼロパーセント。放火犯を野放しにするより、リスクは低いなどと考えているはずだ。

喜多嶋は井上に、「黒川は腹をくくった確信犯」なので「説得」ではなく「実力行使」でいくべきだとアドバイスする。それは、事件発生初期に溝口が予想していたことと同じだった。

井上はしんしんと雪が降る中、次に黒川が訪れると予想される「犬屋敷」でじっと身を隠していた。

そこにやってきた黒川。井上はその背後に周り、拳銃を構えた。

井上の警告を無視して、犬に注射をしようとした黒川に対し、井上は迷わず威嚇射撃を行う。

落ち着いた様子の黒川は、逮捕状を確認してもいない上に、武器ももたない容疑者確保のために水平射撃で威嚇射撃をするというのは、ただで済む行為とは思えないと語る。

井上の脳裏に、フィラリアに感染した被害者の姿が、血みどろになった溝口の顔が浮かんだ。

「お前一人をつかまえることができれば、どうなってもいい」

井上は再び、引き金をひいた。

27話考察

喜多嶋による黒川の行動分析は、非常に的を得たものである。やはり、黒川は動物を使ったフィラリアの拡散を行う時限爆弾を計画していた。

喜多嶋が言うように、黒川の目的は「大量虐殺」ではない。

フィラリアによって脳の「欲望を支配する」部分を侵食することで、犯罪者=放火犯を浄化することだ。しかし、それによって他の市民にも被害が出ることを黒川は厭わない。

彼にとってフィラリアに脳を侵食されることは、「人として望ましいこと」なので、止める理由はないのだ。

黒川の言う通り、日本の警察組織において「拳銃を構える」という行為自体が、あってはならないタブーである。それはもちろん井上も承知の上で発泡をしているだろう。おそらく井上は、非力な女性である自分でも、確実に黒川を確保できる方法として、拳銃を利用することにしたのだろう。

それが、井上の覚悟だ。

マンホール<下巻>28話「黒川宏」

井上の放った銃弾は、黒川の腹部をとらえる。

自らの手を汚した鮮血を見て、黒川は「ここまでか」とつぶやく。

「真っ直ぐないい目をしている。その覚悟を一人でも多くの犯罪者の摘発に」

井上の目を見てそう言い残した黒川は、雪上に倒れた。

 

病院に運ばれた黒川は、傷の手当を行い、命に別状はなし。続けてMRI検査を受けることになる。

車いすで検査室に現れた黒川は「申し訳ないが、女性は直ちに退出してもらいたい。今から行われる出来事は女性にお見せするには忍びない光景となるだろう」と意味深な発言をする。

警察はもちろんそれには応じない。

黒川は語る。

  1. これまで自分が起こした事件は、黒川自身の命をかけた挑戦である。
  2. マスコミが事件の真相にたどりつけるよう、ヒントは意図的に用意した。
  3. このまま放置すれば、槙野市民は片目を失う代わりに連続放火の恐怖から解放され、かつ犯罪のない社会が約束される。
  4. 黒川が行ったすべての行為は善行である。

「私の役割は今日で終わる」と前置きした上で、事件の真相を全国民が知り、その時、黒川の意思を正確に理解し、ボツワナに飛ぶものが現れたら、「その時ことが私の本当の勝利だ」。

そして、黒川は笑った。

黒川は予定通りMRIにかけられたが、その途中で首付近が破裂し、大量出血。現場は騒然となる。

28話考察

井上の「冷静な暴走」により、黒川はあっけなく逮捕される。

彼女が、溝口に対する怒りに負けたり、我を忘れることなく冷静に黒川と対峙できたのは、喜多嶋との会話の影響も大きかったと思われる。

黒川はMRI検査を受けると分かった時点で、自殺する意思を持っていたのは明白だ。彼は元研究員であり、検査器具の内容にも精通していただろう。

「女性を退出させる」などという意味深な言葉は、黒川の紳士的な一面であると同時に、自らへの自虐や余裕すら感じさせる。

例えば黒川には、正当な取り調べを受けた上で裁判の場で自らの想いを告白するという選択肢もあり得たはずだ。しかし、彼は自殺によって自ら、その可能性を否定する。

彼の言葉とおり、マスコミはこの事件を面白おかしく報道するだろう。黒川はそれによって「国民の自由意志により、黒川の思想を受け継ぐものが現れること」を期待しているのである。

そしてその時、「革命の旗手」である自分はすでに存在せず、ある意味「象徴」として神格化されることでより「思想の深化と拡大」が効果的に行われると夢想したのではなかろうか?

また、彼は安定した老後のすべてを投げ打ってこの犯行を行っている。計画を始めた段階で、これ以上長く生きようとは思っていなかっただろう。

マンホール<下巻>最終話「集結」

事件から3ヶ月後、警察を依願退職した井上は、ファミリーレストランで働いていた。

そこにやってきたのは、右目に眼帯をした溝口だった。

溝口は井上を警察に復帰させるべく警察官募集要項を持ってきていた。

「お前にはでかい借りができた。お前が戻らねえと返せねえんだよ」

婦警からやり直せば、すぐに刑事に引き抜いてやると井上の人生プランを完全に無視した物言いで話を進める溝口にあきれる井上。しかし、「また一緒にやろう。笹原署で待ってる」という溝口の言葉を聞き、「はい」と返事をした。

最終話考察

被疑者にみすみす監視下で自殺されるという大失態を演じた捜査本部にとって、証拠品の拳銃を使い単独で犯人を確保した女性刑事がいたなどという事実は、絶対に表に出したくない情報だろう。

それでも前向きに新しい人生を歩み始めた井上だったが、溝口は、大きな借りを作った「優秀な相棒」をそのまま手放すようなことはしなかった。

最終話のタイトルは「終結」ならぬ「集結」。

いつかまた、この名コンビが活躍する物語を読んでみたいものだ。

<総括>黒川の行為は「善行」なのか?

孫娘に対する卑劣極まりない非道を行った田村への復讐から始まった、黒川の旅は、MRIの中での自殺というショッキングな形で幕を閉じた。

彼は自らの行為を「善行」であると言った。

彼がアフリカで見つけてきた新型フィラリアは、人間の欲望をつかさどる脳の部分に侵食し、機能不全を起こす。それは、かつて精神病患者に行われていた「ロボトミー手術」と同種の効果をもたらすものであると、彼は考えていた。

彼の目的は「世にはびこる犯罪者の浄化」である。

本来であれば、加害者である田村への直接的報復、殺害へと向かうはずのベクトルが、彼の場合「犯罪者全体の駆逐」へと向けられた。

彼の行為はある種、「人類への警鐘」であったのだろう。

例え、黒川が田村に対して個人的な復讐を行ったところで、一人の世の中から半ば排斥された犯罪者がいなくなるだけのこと。そして黒川自身も、田村と同じ「犯罪者」に身を落とす。

それでは、何も解決しない。問題の根本は、違うところにある。

黒川は、本気で新型フィラリアを使った脳の侵食により、「犯罪のない社会」を作ることができると考えていたのだろう。また、それと同時に、自身の行為がマスコミを通じて、「多くの人類に知らしめられる」ことを望んでいた。

それは、自らの意思を「受け継ぐ者」を欲したからである。

黒川自身、犯行の結末は「死」であると予感していたはずだ。しかし、必ずや自分の意思を受け継ぎ、ボツワナに飛ぶものが現れる。黒川にはきっと、そういう確信があったのだろう。

彼は「世界に革命を起こす方法」を世の中に提示した。

あとはその後の世界を生きるものが、後を受け継いでくれるだろう。

MRIに入り、口の中でボルトを転がしながら、黒川は湧き出る笑いを噛み殺していたのかも知れない。

黒川の行為は「善行」と言えるのか?

新型フィラリアによって脳を侵食されることを「望む」人間は少ないだろう。何の罪も犯していない善良な人間個人の自由意志を「許可もなく強制的に破壊する」ことは、何人たりとも許されない行為である。

少なくともその観点から考えれば、フィラリアを使った爆発的感染を引き起こして無差別に被害を広げる行為は、犯罪以外の何物でもなく、「善い行い」であるとは言いがたい。

ただその半面、我々はこの社会から犯罪をなくすことは出来ず、今も世界中で人が殺され、略奪され、傷めつけられ、犯罪の数だけ、被害者が生まれている。

そこに有効な「解決手段」は存在しない。

黒川の示した手法は、「犯罪を減らす」ある種効果的な方法かも知れない。しかし、犯罪を減らすことと、人間の尊厳を守ることを同じ秤に乗せて、判断することはできない。

犯罪とそれに伴う被害は、我々、欲望にまみれた人間の罪であり、罰である。

故に黒川には、笹原署刑事課・滝本刑事の言葉を借りて、こう言いたい。

「それでもあなたは、間違っている」と。

 

本稿を持ちまして、マンガ「マンホール」の分析レビューは終了となります。ご愛読ありがとうございました。

次回の分析レビュー記事もお楽しみに。

 

★神紅堂書店の漫画「マンホール」ネタバレレビューと考察

  1. 戦慄のバイオホラー!筒井哲也の漫画「マンホール」<上巻>ネタバレ1〜3話 映画化された「予告犯」作者による現代に巣食う恐怖 
  2. 片目に巣食う新種の寄生虫!筒井哲也の漫画「マンホール」<上巻>ネタバレ4〜6話 フィラリアが欲にまみれた人間の脳を喰らう。
  3. 始まった寄生虫感染の連鎖!筒井哲也の漫画「マンホール」<上巻>ネタバレ7〜9話 狂気の写真家・水野が夢見る欲望なき世界
  4. 「2番目の男」登場で新たな事実が判明!筒井哲也の漫画「マンホール」<上巻>ネタバレ10〜12話 浮かび上がる犯罪の裏に潜む闇
  5. フィラリアを媒介するヤブ蚊が大量発生!筒井哲也の漫画「マンホール」<上巻>ネタバレ13〜14話 現場で起こった「最悪の事態」とは?
  6. 恐怖!蚊に刺されすぎた女!漫画「マンホール」<下巻>ネタバレ15〜17話
  7. 日本でバイオテロが発生!漫画「マンホール」<下巻>ネタバレ18〜20話
  8. 真犯人・黒川宏は誘拐事件被害者の祖父漫画「マンホール」<下巻>ネタバレ21〜23話
  9. 反逆の井上、刑事人生をかけた覚悟と拳銃「マンホール」<下巻>ネタバレ24〜26話
  10. <完結>黒川の理想、溝口の希望、井上の変心「マンホール」<下巻>ネタバレ27〜最終話

http://shikawo.com/tsutsui-hp/

★漫画「マンホール」新装版

アドセンス大

アドセンス大

アドセンス関連記事

アマゾン



-コンテンツ, 本と映像, 漫画
-, , , ,

Copyright© 神紅堂書店 , 2017 All Rights Reserved Powered by AFFINGER4.