マンガ「HIDEOUT(ハイドアウト)」感想・ネタバレ これは怖い!戦慄の「洞窟サイコホラー」は低予算映画の原作にオススメ!

マンガ ハイドアウト

本書は、柿崎正澄氏が2010年に小学館ビッグコミックスピリッツ史上で連載した短編マンガである。

単行本1巻の短編ではあるが、中身は相当に濃い。もうドロドロのグニグニだ。

舞台は1989年、南海の孤島。かつて大戦の最前線として激しい戦闘が繰り広げられた土地だ。

主人公の小説家・桐島誠一は、妻と2人でこの島へ旅行に訪れる。妻の美樹との関係修復を目的にしたこの旅行、誠一は「きれいな滝」を見に行こうと美樹を島の奥へと誘う。

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南海の孤島、森の奥。ぽっかりと口を空けた穴が悲劇の始まりだった

大雨の中、車で山道を行く2人。誠一の真の目的は、美樹を殺すことだった。

この島には戦争で亡くなった兵士の骨がいたるところに散らばっていた。たとえそこに白骨死体が一つ追加されても、誰も犯罪被害者のものだとは思わない。

「お前がいなければ、俺はいつでもやり直せる」

スパナを振り下ろして美樹を襲う誠一。森の奥の奥へと逃げた美樹を追っていくと、真っ暗な洞穴の入り口が口を開けていた。

穴の中に落ちた美樹は足を怪我していた。

美樹を再び殴り倒し、トドメを刺した誠一の後ろに人影が。そこには目をかって見開いた痩せた少年が立っていた。彼は「オカアサン」とつぶやく。

自分は幻を見たのだと言い聞かせる誠一。彼は最近、最愛の息子を亡くしていた。

暗闇の中の襲撃者、現る。

洞窟の中で道に迷ってしまった誠一は、まだ新しい革靴を見つける。その直後、謎の老人に襲われる。

老人はひからびたミイラのように痩せていて、伸びきったヒゲと落ち武者のような髪を振り乱し、むき出しになった眼球を暗闇に光らせながら、ナタのような武器で誠一を執拗に攻撃する。

追い詰められた誠一は、足元に鉄製のハッチがあることに気づく。それを開けると、地下に続く階段があった。そこへ逃げ込もうとあせった誠一は、足を滑らせて地下に落ちてしまう。

そこは、おそらく旧日本軍の施設だったのだろう。いつくかの小部屋に仕切られていて、その中には朽ちた人間の死体が転がっていた。その中にまだ生きている若い女性がいた。首を鎖で繋がれ、衣服はボロボロ、皿のような器の中に何かの骨が浮かんでいる。

「あなたで9人目。みんな死んだ」と女性は言った。誠一は混乱する。

「あの子は元気にしている?」と意味の分からないことをつぶやいた女性は、生気なくため息をつき、「あなたも死ぬ」と断言する。誠一のすぐ後ろに、老人が迫っていた。

老人に殴打され気絶し、引きずられていく誠一。その途中、椅子に縛り付けられた男の姿を見た。男は、手足を失い、「もう殺してくれ」と泣きながら懇願していた。誠一は気がついた。捕らわれた人間は、この不気味な老人の食糧なのだということに。

逆襲の美樹。生きていた「殺しておくべきだった女」

誠一は裸のまま椅子に縛り付けられていた。もう何日経ったのかも分からない。

断続的に聞こえていた叫び声が途絶えた。扉の隙間から老人が誠一の様子をうかがう。次は自分の番だ。そう確信した。

しばらくしてドアが開いた。そこに立っていたのは殺したはずの美樹だった。誠一が殴打した頭の傷跡は乱暴に縫い付けてあった。

美樹は以前の恨みを晴らすように誠一を痛めつけ、「すべてをやり直すのはわたし」と捨て台詞を吐いて去っていった。

二人の関係がこじれた原因が一人息子・純の死にあった。
小説家を生業にしている誠一は、美樹と純の三人暮らし。しかし、誠一は連載を打ち切られるなど仕事が減り、悩んでいた。どんどん少なくなっていく通帳の残金。その反面、美樹は遠慮なくブランド品にお金をつぎ込むなど浪費を浪費を繰り返す。やっとのことで仕事を得た誠一は、イヤホンをして仕事に集中していた。そんな時、美樹は純を家に置いて遊びに出かける。純は、ベランダの洗濯物を取り込もうとして足を滑らせ転落死してしまう。
美樹にもその両親からも「純が死んだのはおまえのせいだ」と責められる誠一。彼はもう一度やり直そうと美樹に頼み込むが、美樹はすでに子供の死をふっきっていて、「最初から子供なんてほしくなかった」と冷たくあしらう。
誠一は意を決して美樹の両親に離婚の相談に行くが、逆に弁護士をたてて慰謝料をとると脅された。

すべてを葬り去る。決意した男の暴走
虫の息の誠一を老人の子供がたずねてくる。子供の言う「オカアサン」が鎖につながれていた女性だと気がついた誠一は、子供を言葉巧みに操り、「本当のお母さんに会わせてあげる」と誘惑し、見事に監禁部屋を脱出する。ゴミ捨て場の中から、武器となる刀を手に入れた誠一は「すべてを葬る」ことを決意した。

美樹は生きるためにバケモノと化した老人を受け入れようとしていた。
美樹の上に多い被さっていた老人の胸から、突然刃物が突き出す。
「すべて葬ろう」誠一が唇をゆがめて笑う。
死んだと思われていた男が立ち上がり、誠一に反撃する。その隙に逃げ出す美樹。誠一は再び刀をふりおろし、老人を切りつける。血を吹き出しながら倒れる老人。
誠一は、美樹を追いかける。
「オカアサン・アイタイ」そうつぶやく子供に、誠一は死んだ息子の姿を重ねていた。

どうしても手に入れたかった家族の幸せ
逃げた美樹を追いかける誠一。重傷を負っているはずの老人も立ち上がり、隠し持っていた銃剣を手に憤怒の雄叫びをあげる。
逃げる美樹、追う誠一、怒りに震える老人。ここにはこの世の地獄があった。
出口を見つけて喜んでいた美樹は、その直前で老人に頭を貫かれて即死。誠一は子供と一緒に地下ハッチを目指していた。
「あの下にお母さんがいる」
ハッチを降りようとした時、老人が現れ、誠一に襲いかかる。歯をカチカチと鳴らして震える子供に、「早くお母さんのところへ行くんだ。心配いらないよ、お父さんも後から行くからね」と語りかける。誠一の中で「何か」が壊れ始めていた。
暗闇の中で対峙する誠一と老人。お互いに武器を持ち血みどろの顔に狂気の仮面を張り付け、殺意の波動をみなぎらせる。
「お前を殺してやる」
誠一は老人に笑って見せた。
誠一と老人の生存をかけた殺し合い。
「俺は家族のためにがんばってきた、俺は悪くない。もう、うんざりだ。俺は新しい家族が欲しい」
誠一は老人に最後の一撃をくらわせた。死を覚悟した老人は、隠し持っていた手榴弾のピンを抜く。
「バンザイ」老人が虫の息でつぶやいた直後、暗闇の中に爆音と閃光があふれた。

誠一には秘密があった。
旅に出る直前、再び美樹の両親をたずねた誠一は、二人を包丁で惨殺していた。彼はすでに犯罪者であり、この世界に戻るべき場所は存在していなかったのだ。

手榴弾の爆発を逃れ、何とか生き延びた誠一は地下へと向かっていた。
「こうして今になって考えてみると、あのバケモノに悪意はなかったように思える」
あいつはこの洞窟の中で何十年も一人で過ごして来た。ここで小さな家族を築こうとしていた。ただそれだけのこと。
地下室には、生き残った女性と子供がいた。
「信じられない。これで外に出られるなんて」そう喜んだ女性に誠一は問う。
「どうして外に行くのさ?」
誠一の主張はこうだ。僕がいて、君がいて、愛する息子がいる。他に何も必要ないだろ?
「イカれてる。あなたもあのバケモノと一緒」と女は嘆いた。
誠一は「理解のない」二人を殺し、新たに洞窟の主となった。
これが1989年に起きた物語のすべてである。

あれから20年。悲劇はまだ続いていた

そして月日は流れ、2010年11月30日。
島を観光で訪れた若いカップルが森に迷い込み、古いメモ帳を見つける。そこには、こう記してあった。
「私はずっとひとりで寂しいです。私はあなたい会いたい。この本を読んでくれたあなたへ・・・もしその穴を見つけた際は、遠慮せずお入りください」
二人はライトをつけ、目の前の洞窟を進んでいく。
その奥底で血走った二つの目が、こちらを見据えていることも知らずに。

登場人物分析

桐島誠一 ただ「家族」を欲した男

桐島誠一は小説家、あるいは文筆家として生計を立てていたが決して売れっ子とはいえず、常に仕事と生活の心配をしなければならない状況だった。
妻の父親に「家族の幸せも知らない奴が・・・」と罵られていたことから、他に家族や親戚縁者がいない、例えば幼少期から孤児院などで育ったような天涯孤独の身の上だったという可能性も考えられる。
特に「幸せな家族」への執着が強いのは、そういった生い立ちや生活環境による部分が大きいのではないか。

桐島美樹 母親になれなかった女

外見も中身も派手な女性。ブランド品を買いあさるなど浪費癖が見て取れる。実家は経済的に豊かで、父親は権力者なのか非常に横柄な態度が目立つ。おそらく幼少期から、ほしいものは何でも与えられ、甘やかされて育ったという可能性は高い。
誠一との出会いは描かれていないが、いわゆる「できちゃった結婚」であり、息子が事故死しても「最初から子供なって欲しくなかった」と言い切る冷淡な一面もある。

洞窟の生ける亡霊 人でなくなった旧日本兵

かつて戦場となった南の島で森の奥にある洞窟で長く暮らしてきたであろう老人。

シワだらけのひからびた皮膚。まだらに生え伸びた髪とヒゲ。するどく尖った爪、血走った眼球。誠一たちが「バケモノ」と形容するに相応しい異形の民である。

住処としていた洞窟の奥にはハッチがあり、おそらく旧日本軍が使っていたであろう施設が広がっていた。旧式の銃剣を使用し、自決する際には手榴弾を使って「バンザイ」と日本語をつぶやいたことから、終戦後も島に残った旧日本軍の兵士であると推測される。

物語の舞台が1989年。終戦が1945年なので、この老人が終戦当時20歳だったとしても、64歳。過酷な洞窟生活の状況を考えれば驚異的な生命力、精神力だと言うことができるだろう。

老人の子供 暗闇で生まれた名も無き子

洞窟内で老人と暮らしていた男の子。監禁されていた女性を「オカアサン」と呼んでいたことから、老人が女性に産ませた子供であると推測される。

片言ながら日本語を話しコミュニケーションが可能。不気味な見た目とは裏腹に、中身はおそらく4~6歳程度の純粋な少年だと思われる。

監禁されていた女性 絶望の中で生き続けた悲劇の女

ハッチの中に監禁されていた若い女性。8人の人間が食糧として殺されているのを目撃し、それでも暗闇で生き続けた悲劇の女。

子供の母親であることが真実ならば、少なくとも6~7年程度は、この場所に監禁されていたことになる。この状況で正気を保っていられるのは、相当な精神力が必要だろう。子供が「ニゲタ」といった女がこの女性のことなのかは定かではない。子供は、若い女性であれば誰でも「オカアサン」と認識した可能性も少なくないからだ。

だが、無事に洞窟から逃げ延びた者がいるならば、洞窟で繰り広げられている殺戮が黙殺されるはずがない。そうなるとやはり、この女性は子供の母親として、洞窟内に長く監禁されていると考えるのが妥当だろう。

「普通の家族」に憧れた男の壮絶な人生

おそらく孤独な少年時代を過ごしたであろう誠一は、愛する人と結婚し、子供を産み育てるという「普通の家族」を作りたいと願っていた。一度はそれを手にした誠一だが、「子供の事故死」という悲劇によって、すべての歯車が狂ってしまった。

美樹という結婚相手が果たして誠一にとって最適な女性であったのかという疑問はあるが、少なくとも誠一は、美樹に対して多分な愛情を注いでいたように思える。

誠一が妻を旅行に誘った際、すでに彼女の両親を殺害する計画は決まっており、彼はそれを実行してから旅路に着いた。

つまり、彼はこの時点で2人の人間を殺害した犯罪者であり、無事に帰国したとしても自由を得られる可能性は限りなく低かった。

しかし彼は、南の島で「美樹を殺しやり直す」ことを計画していた。つまり、島、もしくは大陸に渡り、そこで逃亡生活を送ることを念頭に置いていた可能性もある。

暗闇にとらわれた兵士の末路

洞窟を住処とし、森に迷い込んだ観光客を食糧として数十年の時を生き延びた老人。

彼は、誠一が推測した通り、洞窟の中に「家族」を欲したのかも知れない。

女性に関しては食糧とせず活かしていたのは、自身の性欲を満たすためか、それとも「家族」としての重要なピースと考えたのかは定かではない。ただ、子供に服を着せ、「外の世界の危険性」を説くなど、人間としての「意識」は完全に失われてはいないようだ。

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そして、本作「ハイドアウト」で苦悩の末、殺人を犯しバケモノへと変貌する殺人犯は「桐島」誠一。

この奇妙な一致は何を意味するのか?

メイン舞台は洞窟、低予算映画の原作におすすめ!

本作の舞台はほとんどが洞窟の中、登場人物も少ないので、低予算映画の原作にオススメな内容だと思う。

マンガでさえこの恐ろしさであるからして、これが実写になったらそれはもう、劇場は阿鼻叫喚の渦になるのではなかろうかと密かに期待している。

さあ、勇気ある若手映画監督の皆さん、プロデューサーの皆さん。

映像化件とるなら、早くしたほうが良いと思う。

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