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漫画「僕だけがいない街」感想・ネタバレ【1〜8巻】時空を超えた青年は、忘れられた連続誘拐殺人事件に挑む

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僕だけがいない街

【参照:角川書店ホームページ

三部けい氏による「僕だけがいない街」はヤングエース(KADOKAWA)に連載中のミステリーマンガである。

「このマンガがすごい!」においてオトコ編第15位、「マンガ大賞2014」において第2位を獲得した、今後、注目の作品だ。

 

目次

時間を巻き戻る青年

主人公・藤沼悟(28)は、売れないマンガ家。デビューはしたものの、その後は鳴かず飛ばずで、オリジナル作品を描いては出版社に持ち込むが、なかなか良い返事はもらえない。

原因は分かっていた。「キャラクターの心の奥まで掘り下げる事によって出て来る」「読み手の心に届く言葉が足りない」からだ。しかし、自分の心に「踏み込む」こと、自分が何もない者、つまらない者である事を確認してしまうことを悟は怖がっている。

悟は、生活費をピザ店のアルバイトで稼いでいる。

ある日、配達中に信号待ちをしていた悟だが、しばらく走り出すと「イヤな感覚」に教われる。気付くと悟の身体は、少し前の「信号待ちをしている状態」に戻っていた。つまり「時間が巻き戻った」ということになる。

悟はバイクで街を走りながら、そこに隠されているはずの「違和感」を探す。そして、すれ違った1台のトラックに目を付ける。そこで2回目の「巻き戻し」が起こり、悟は仕方なく行動を開始する。

まず、横断歩道を渡ろうとしていた小学生を現場から遠ざけ、問題のトラックに並走する。見ると、運転手は社内で気を失っていた。クラクションを鳴らして呼びかける悟だったが、トラックは止まらず、正面からやってきた乗用車と激突してしまう。

二日後、病院で悟は目を覚ました。

病室には事故現場に偶然居合わせたアルバイト仲間の片桐アイリがいて、事故後の事情を説明してくれた。

入院中、悟は昔の夢ばかり見る様になった。

雪深い北海道の故郷、小学生の自分、そして同級生の少女・雛月加代のことを。

母・佐知子の登場

悟は無事に退院し、帰路につく。

悟自身は、例の「巻き戻し現象」のことを「再上映=リバイバル」と呼んでいる。

「だいたい1分から5分くらい前に戻って何度も同じ光景を見る」というそれは、「決まって何か悪いことが起こる直前」なのだという。悟は、「リバイバル」に遭遇することで、結果的に「何度となくトラブルを回避」してきた経験があった。

アパートに帰ると、母の佐知子が北海道から出て来ていた。元テレビ局の局アナで、52歳とは思えないほど「昔のまま」の容姿で、昔から「何でも自分で勝手に決めていた」ため、悟にとっては「ウザい」存在だった。佐知子はしばらくアパートで悟と一緒に暮らすことになり、悟は憂鬱な気分になる。

記憶にふたをして忘れてしまいたい「ある事件」

子供の頃、悟は「人間関係が苦手」なタイプだった。しかし、河川敷で出会った年上の友人「ユウキさん」と出会ったことにより、次第に普通の友達付き合いが出来る様になる。

そんな頃、悟の同級生である雛月加代が誘拐されるという事件が発生する。大人達は、その事実を隠したがったが、子供達の間で噂は広まり、やがて他校でも児童が行方不明になっていることが分かる。

半年後、連続誘拐殺人犯として逮捕されたのは、「ユウキさん」こと白鳥潤(23)だった。彼は3名の小学生を殺害したとして、その後の裁判で死刑が確定した。

当時、小学生だった悟には「到底止められ」ない、今まで「記憶にふた」をしていたこの事件は、悟にとって「忘れたい事件」だった。しかし、それを今になって思い出し、わざわざ事件の概要がまとめられている書籍を購入する。

交通事故以来、悟とアイリの関係は急速に深まって行った。

アイリと街を歩いている時、悟は「リバイバル」に遭遇し、建築中のビルで起こるはずだった事故を未然に解決する。

購入した本をそこでなくしてしまうが、悟はその本を読むことが「子供が危険な場所に足を踏み入れる行為」と同じであると「直感」で感じていた。

「誘拐」にまつわる過去と現在

悟は幼い頃、「他人が自分に優しくしてくれる理由」が分からなかった。行動するために「理由」が必要で、それがないとうまく人とのコミュニケーションが出来なかった。

様々な要因、変化があり、悟は「いつの間にか自然に笑ったり、怒ったりできる」ようになった。そんな小学5年生の頃に起きたのが、「連続誘拐殺人事件」だった。大人や教師は子供達の頭から事件の記憶を消そうと必死になった。子供達は、自然と事件を持ち出すことはなくなったが、悟自身の心の中にある「ひとつの思い」を忘れてしまいたいと思っていた。

母親と暮らし始めた悟は、連れ添ってスーパーへ買物に行く。そこには偶然アイリがいて、前の日に悟がなくした本を持って来ていた。

買物帰りの駐車場でリバイバルが起こる。違和感を必死で探す悟だったが、何も見つからない。しかし、佐知子がある「異変」に気がつく。小さな女の子の手を握り、スーパーの駐車場から離れて行く男の背中。男は佐知子の視線に気付くと、子供を置いて車で去って行った。

アイリを招いて、藤沼家で夕食。母親の「容赦ない発言」に対して起こった悟と口論し、勢い余って部屋のガラス窓を割ってしまい、それを隣に住む大家に目撃される。

悟は、昼間スーパーの駐車場で「何か気付いた事」はないかと佐知子に訊ねる。

佐知子は「誘拐事件が未遂に終わったよ」と冗談めかして答える。それが冗談でないことは、悟が一番良く分かっていた。

「誘拐」という言葉を聞いて、悟はアイリから受け取った過去の犯罪に関する本を読む。

犯人=白鳥潤が殺害した小学生は3人。悟が通っていた美琴小学校5年の雛月加代、隣町の小学校に通う中西彩、そして美琴小学校5年の杉田広美。そのうち広美は唯一の男児であり、悟が「一番忘れたかった人間」だった。

広美は悟と同じグループに所属する少年で、彼の死に関して悟は、「僕なら助けられたハズなのに」と強く後悔していた。

凶刃に倒れた佐知子

佐知子が「冗談」という時は、決まって「本当の事を言っている時」だと悟は分かっていた。

佐知子が「誘拐」というキーワードを語った事から推察して、悟は「リバイバル」の時に誘拐事件が起こりそうになったが、佐知子が目撃している事に犯人が気付き、未遂に終わったのだと考えた。

一方、佐知子は、事件の詳細に考えを巡らせていた。

女の子を連れ去ろうとしてた「パーカーを着た男」は、「一見親子にしか見えなかった」が、間違いなく子供を誘拐しようとしていた。

佐知子は深く眠った記憶を掘り起こし、図書館で調べものをしてやっと「あの目の男」を思い出した。

佐知子は18年前の事件が白鳥ではなく、その男の反抗であると考えるようになり、警察に行くべきか悩んだ。そして、ある人物に連絡をとった。

佐知子は帰宅し、「18年前の事件はまだ終わっていない」と確信する。犯人の今を調べると同時に、悟と向き合って事件の事を話そうと決心した直後、部屋に侵入して来た何者かに刺殺される。

バイトを終えた悟は、母の変わり果てた姿を発見する。

絶体絶命の危機に発動したリバイバル=再上映

悟は佐知子に心臓マッサージを行うが母は蘇生しない。

悟が「リバイバル」を求めると、本当に時間が巻き戻った。しかし、すでに佐知子は絶命した後だった。

このままでは救命が難しいと判断した悟は、別の方法を探し、犯人がまだ近くにいるという可能性を見いだす。外に出ると、アパートの隣に建つ大家の家の庭に人影が。悟が姿を見せると、影は逃げ出した。悟もそれを追いかける。部屋を飛び出し、必死になって走って行く悟を見て、大家の女性が警察に通報した。

悟は犯人と思われる男を追いかける途中でバイクで警邏中の警察官に遭遇し、とっさの判断で逃げてしまう。

悟は考える。「すぐにつかまえられる」と思って走ったが、逃げられたのは犯人に「土地勘」があるからだ。佐知子が殺された原因はおそらく「誘拐未遂事件」を目撃したからに違いない。家まで尾行されていたとすると、アイリや悟自身が殺されてもおかしくないのに、それをせずわざわざ大家の家の庭に隠れていたのはなぜだ?

悟は気がついた。すべての証拠が「悟の母親殺し」に向けられていることを。

逃げなければまずい。そう思った矢先に、悟は警官から職務質問を受けてしまう。

強く「リバイバル」を願った悟の身体に異変が起こり、時間の巻き戻りが起こる。

悟がたどりついたのは、昭和63年だった。

小学五年生の身体になった悟は、懐かしい母校の正門前で途方に暮れる。

 

登場人物考察

藤沼悟(28) 時を翔るフリーター探偵

北海道から上京し、漫画家を目指すフリーター。

1度ゲームのコミカライズでデビューしたが、その後は作品発表の機会に恵まれず、描いては出版社に持ち込む日々。頭脳明晰でクールに自己分析を行うが、他人とのコミュニケーションはあまり得意なタイプではない。

日常生活の中で「何らかの事件に巻き込まれる可能性」に直面した際、本人曰く「再上映=リバイバル」という特殊現象を引き起こす能力を持つ。これは、事件が起きる数分前に「巻き戻って」、未然に事件や事故を防ぐために行動ができるチャンスを与えられるというものだ。その際、記憶や思考は「リバイバル」前の状態が引き継がれる。

小学5年生の時に起きた、連続児童誘拐事件が心の中にトラウマとして残っている。

片桐アイリ 天真爛漫女子高生

悟と一緒にピザ店でアルバイトをする女子高生。

天真爛漫で誰とでもすぐ打ち解けてしまう。

リバイバルによって事故に巻き込まれた悟を目撃したことから、悟と深く関わるようになる。

リバイバルのことを「悟の危険なおせっかい」と表現し、直感的に何かに気がついている様子。

藤沼佐知子 美貌のマザーは元局アナ

悟の母親で、悟が事故にあった一方を受けて北海道から上京した。

元テレビ石狩の局アナ。52歳とは思えないほど若々しく、性格は豪快にして、思考は緻密。

頭脳明晰で、小さなヒントから18年前の誘拐殺人事件に真犯人にたどり着くが、その凶刃に倒れる。

18年前の誘拐事件 真犯人は誰だ?

悟のトラウマでもある、18年前に起こった小学生の連続誘拐殺人事件。

犯人として逮捕され、死刑判決を受けたのは、悟が他人とコミュニケーションが上手くとれるようになるきっかけをくれた近所のお兄さんである「ユウキさん」こと白鳥潤だった。

当時、佐知子を含む大人達は、テレビを含めたメディアを操作するなど、かなり荒っぽい手法を使って、子供達に「誘拐事件の情報」が流れないように情報統制を行なった。

大人達がよかれと思って行なった行為だが、その考え方が「白鳥潤」という「冤罪」を作り出す一助となってしまった可能性はある。

佐知子の行動から推察すると、前述した通り、「白鳥潤」は誘拐事件の真犯人ではないということだろう。

真犯人は、佐知子がスーパーの駐車場で目撃した「パーカーとメガネの男」であり、佐知子が顔や名前を見知った存在である可能性が高い。

それは真犯人がリスクを負ってまで、佐知子を殺そうと計画したことからも間違いないと言えるだろう。

現状で分かっていることは、

・犯人は18年前に北海道にいて、佐知子や悟も知っている人間である

・男である(可能性が高い)

・普段メガネをかけているらしい

・狡猾かつ残忍で知的レベルも高い

・右利きである(ナイフを刺す様子から)

ということくらいだろう。

少なくとも3人以上の児童を殺害し、無罪の人間に罪をなすりつけた挙げ句、18年間のうのうと暮らし、また再び別の場所で誘拐事件を起こそうとしている。しかも、その犯罪が露呈する危機を感じるや否や、そのキーマンである佐知子を殺害、悟をその犯人にしたてあげようと画策する。非道きわまりない犯人だが、その狡猾な知性は脅威と言えるだろう。

再上映=リバイバルとは何か?

悟の特殊能力である再上映=リバイバル。

これは、悟が何か事件や事故に遭遇しそうになると、その違和感を直感で感じ、「過去へ数分間さかのぼる」ことができる能力である。

リバイバル先でも、悟の意識や思考はさかのぼることがないので、悟は感じた違和感の原因を探し、問題を未然に解決することができる。

この能力は、悟自身がコントロールして発動することはできないようだが、「強く願う」ことで発動した事例もあり詳細は不明。

1巻のラストで、悟は18年前にリバイバルし、28歳の思考を有したまま、再び小学5年生として生きることになった。

まさに名探偵コナンが言うところの「身体は子供、頭脳は大人」を地でいく少年探偵である。

悟の人格形成に影響を及ぼしたであろうトラウマ

悟は18年前の誘拐事件で大きな心の傷を負った。

一つは「仲良くしていた友人であるユウキさん=白鳥潤が犯人だった」ということ。

ある意味、彼の人生における最初のターニングポイントであった白鳥が殺人者であったという事実を悟はどう受け止めたのか。

二つ目は、同じグループに属していた杉田広美の死である。

悟は、いまいちグループに馴染めなかった広美を中に引き入れることが出来る立場にあった。しかし、それをせず突き放してしまったために、広美が殺されたと幼い悟は考えた。「僕なら助けられたハズなのに」という言葉に、その想いが現れている。

佐知子が、悟の中から事件の記憶を消そうとした理由も、この言葉が発端だろう。

 

物語は、18年前にさかのぼり、問題の児童連続誘拐殺人事件に迫る。

「僕だけがいない街」感想・ネタバレ【2巻】 誘拐事件阻止のために奔走する悟の前に立ちはだかる「運命」という巨壁。

「リバイバル」によって悟がタイムスリップしたのは、昭和63年の2月15日。通っていた北海道の小学校に向かう途中の小学五年生の悟になっていた。

悟は流されるまま教室に入る。

自分は本当にリバイバルしたのか?状況がまだ理解出来ないまま混乱していた悟は、学校を早退し、母に会うため家に戻る。

自宅には誰もおらず、悟は郵便受けの裏に隠してあった合鍵を使って中へ。テーブルの上に置いてあるオニギリを見て、少し安堵する。

其の夜、現代で死んだはずの母親・佐知子は、元気に仕事から戻って来た。

佐知子が料理をする音、仕草、言葉、笑顔、そのすべてが懐かしい。

悟は夕食のハンバーグを食べながら、いつの間にか涙を流していた。

何気ない佐知子との会話、過ごした「幸せな時間」。「何気なく流れて行った」「失ってしまった時間」の尊さを感じつつも、この「リバイバル」はチャンスなのだと言い聞かせ、未来を変えるために行動することを決意する。

 

早速、行動を開始した悟だが、大きな不安を抱えていた。「この時代の記憶」が自分にどれだけあるのか。18年前のこの時を「やり直す」ことが本当に佐知子を「救う道」なのか?そしてそのために必要な「リバイバル」が「何でこの時代」なのか?

「その疑問はすぐに解消」した。

「このリバイバルの始まりの地点」は「雛月加代が失踪する前の月」だった。

 

その日から、悟は雛月加代に注目する。

悟が加代について知っているのは「母親と2人暮らし」ということだけだった。悟はある日、加代の足に打撲のあとらしき痣があるのを見つける。悟はヒロミ、カズ、ケンヤ、修といった5人組でいつも行動していた。中でもケンヤは、頭が良く、グループのリーダ的存在だった。

そのケンヤから悟は「お前は雛月のことが好きなの?」と聞かれる。どうやら、ずっと雛月のことを見ていたのを誤解されたようだ。

悟は「事件」により「踏み込む」ため、それを肯定する。

放課後、加代と対面した悟が「友達になりたい」と言うと、加代は「バカなの?」と冷たく一蹴した。

「藤沼ってあたしと一緒でニセモノ」だと、加代は悟を評する。

去って行く加代に、それでも友達になりたいと食い下がった悟に対し、加代は「じゃあ、あたしの為に人を殺せる?」と真顔で言った。

通い合う心。未来を変えるために必要な事

「あたしの為に人を殺せる?」

この言葉をきいてから、悟は加代から「真犯人にたどりつけるのではないかと」考えるようになった。

悟の加代に対する感心は高まるばかり。それを友人たちは、加代への愛情と勘違いし、はやしたてる。

悟は手袋をしていないことを友人に指摘され、5人の「アジト」に寄って行くことを提案するが、「雪が降った後は足跡が残るからアジトへは行かないきまり」になっていたことを忘れていて、なんとかごまかすが、ケンヤだけは何かの違和感を感じているようだった。

ケンヤは悟に「お前が雛月を気にしている事が何だかすごく大事なことのように思えるんだ」と告白する。ケンヤという協力者を得て、悟は少し心強く感じていた。

 

帰宅するとケンヤに「読んでみなよ」と言われた「文集」を押し入れの中から引っ張り出す。

加代が書いた作文のタイトルは「私だけがいない街」だった。

「遠くへ遠くへ行きたい」

そう書いた加代の作文は「紛れもなくSOS」だと悟は思った。自分のすべきことは「もっと踏み込む事」だと考えた悟は、佐知子に友人をたくさん呼んでバースデーパーティーをやりたいと申し出る。それは悟が「過去にやらなかった行動」だった。その行動によって「雛月の行動」も変えて、この先、悟の周囲で起こる「事件」を回避する。それを繰り返して行けば事態は好転するはずだった。

放課後、当たり前のように加代を追いかける悟。居場所は分かっていた。「あの公園」だ。

加代は悟が「フリをしている」と指摘する。確かに悟るは「演じて」いた。「人と接するのが苦手な自分」が「人に好かれ」たり、「友達」を作ったりするためには、自分の方が「みんなの事を好きになろう」と思ったと告白する。

加代は答える。

「あたしも演じているうちに本当になる気がするよ」

悟は考える。

自分があえて「関心」があるように装っているのとは逆に、加代はあらゆるものに「無関心」を装っている。

「加代は、何も感じない所まで演じ続けようとしているんじゃないか?」。

悟は加代にバースデーパーティーの招待状を渡す。

この時代の自分に出来る事は何か?自分にとってのハッピーエンドは本当にあるのか?

「口に出して言ってみると本当になる気がする」

現代の病室で、アイリが言った言葉が脳裏によぎる。

「俺は未来を変えたい」

悟は加代の目を見ながら、口に出して言った。

小さな失敗から狂う歯車

「演じているうちに本当になる気がするよ」

悟にとって、18年前にきいた同じ言葉は「同族嫌悪」にも聞こえたが、今回は自分が肯定されているようで胸にしみた。

加代はバースデーパーティーへの参加を承諾する。

「最近の藤沼は少し話し易い」と言われ、「雛月には嘘をつかないって決めたからな」と思った言葉が口をついて出てしまう。

赤くなった加代は、そのまま雪の中を走り去る。

18年前、加代が最後に目撃されたのは1998年3月のことだった。遺体が見つかるのは雪が溶けた後。報道では、加代の年齢は「10歳」になっていたので、加代の誕生日は3月であるはず。つまり、加代は誕生日より前に失踪(殺害)されたということになる。その日を確定させることが、事件発生を防ぐためには重要だと悟は考えた。

 

悟は体育の授業で、アイスホッケー部のレギュラーである浜田とスケートの競争をする。悟は勝利目前で手を抜いてしまい、浜田を怒らせる。それは18年前と同じ失敗だった。

加代も「あたしには嘘とつかないって言ったべさ」と悟の「手抜き」に気づいており、悟は失敗を落ち込むヒマもなく、対応に追われる。

悟は職員室に忍び込み、担任の八代の机で名簿を盗み見ようと企む。そこを八代に見つかったが、彼のはからいにより、加代の誕生日が自分と同じ3月2日であることをつきとめる。

これで加代が失踪する期限となる「Xデー」は、3/1に決まった。

悟は「いつでも相談に来てくれよ」という八代の観察眼に一目置くようになる。

 

放課後、帰り道で加代に謝ろうと彼女の自宅を訪れた悟は、雛月家の庭で焼き焦げた編みかけの手袋を発見する。物置の扉を開けると、そこには痣だらけ、傷だらけで下着のママ横たわる加代がいた。

「見ないで、閉めて、来ないで」懇願する加代、唖然とする悟。

そこに加代の母親が現れ、加代を連れて行く。

「雛月のその傷は何なの?」

「答えてあげな加代」と母親。

「転んだの...」

「悲しい嘘をつく雛月」に、悟は言葉を失った。

悲しい虐待の事実。悟は加代を救えるか...

加代は、母親から日常的に虐待を受けていた。

月曜日に加代の欠席や遅刻が多い理由は、土曜日に母親が加代の顔を殴る日だと分かった悟は、担任の八代に相談する。

八代は雛月家の虐待については把握していたが、様々な事情から公にすることを遅らせていた。加代の母親がうまく虐待の事実を隠しているが、遅かれ早かれ児童相談所に通報して、加代を保護する予定だという。しかし、悟には「雛月が誘拐され、殺される」という確定した未来がある以上、それは実行されずに終わる事は分かっていた。

加代との関係を修復しようと考える悟だが、「虐待の現場でしくじった事」でさらにそれが困難になってしまう。

そんな時、クラスで給食費の盗難事件が発生。当番だった、雛月をおとしめようとクラスメイトの美里が計画したいたずらだった。

悟は、加代を犯人に仕立てあげようとした美里に激怒、必死になって加代を擁護したことで、彼女との関係は何とか改善された。

「クリスマスツリーを見に行こう」と加代を誘った悟は、雪深い森の奥で枯れ木の枝に星空が咲き乱れるように見える天然のクリスマスツリーのある場所へ連れて行く。

これは18年前にも起こった出来事だが、そのとき悟は一人だった。

今は加代と二人。確実に歴史は変わりつつあった。

迫り来る「Xデー」 加代だけでなく、ユウキさんをも救う手段

悟は、週末にデータにいこうと加代を誘う。目的は、問題の「土曜日」に加代を母親の暴力から引きはがすためだ。

「土曜日は早く帰って来いって、お母さんが...」としぶる加代のために、悟は加代の母親のところへ直談判に行く。

理由を様々にでっちあげて二人の行動を認めない母親に悟は食い下がる。

「あんたはどうなのさ、加代。この子と行きたいの?」という問いにうなずく加代。激怒した母親は「色ぼけんなガキども」と加代を殴ろうとする。そこに割って入ったのが佐知子だった。どうやら悟に彼女が出来たのではと疑い、会社帰りに尾行して来たらしい。

「子供が何事かにやる気を見せてるんだから、こっちが手伝ってあげようよ。親なんだから」

毅然とした態度で言う佐知子の態度に気圧されて事はおさまり、悟はどうにか土曜日の約束を取り付ける。

「途中で投げ出すんじゃないよ」と佐知子に言われた悟は、「とーぜん」と返す。

 

2月27日(土)。加代とお気に入りの科学センターを訪れた悟は、妙な既視感を覚える。

18年前は一人でこの場所を訪れ、同じく一人でやって来ていた加代と会い、今日とまったく同じ会話をした記憶が蘇った。

「未来を変えるつもりが、知らず知らず同じ刻のレールに乗ってしまっている」のではないか?

悟は寒気がする想いだった。

 

 

こうして昭和63年2月29日、加代が連続誘拐殺人事件の最初の被害者となる前日がやって来た。

悟はXデーである3月1日を無事に乗り切り、」「3月2日の誕生会」を加代達と過ごすことができれば「未来につながる負の連鎖を断ち切る」ことができると考えていた。

「事件を食い止められれば、犯人も容疑者もいない」、つまり「犠牲となった三人の子供達」はもちろん、無罪の罪で死刑判決を受けた「ユウキさん」をも救うことが出来る。

守られなかった加代の約束

29日の放課後、悟は白鳥潤(ユウキさん)の家を訪問する。当時は、昼間から遊んでいるユウキさんを「無職」だと思い込んでいたが、実際は父親が経営する弁当屋で朝四時から昼迄アルバイトをしていたことが分かっている。

悟はユウキさんと話をし、改めてあの「気の弱い青年が殺人を犯すなど考えられない」と確信した。

その後、児童館で加代と合流した悟は、彼女を家まで送る。翌朝迎えに来る事を約束し、帰宅する。

昭和63年3月1日、18年前、加代がいなくなった日がやって来た。

加代が狙われたのは「いつも公園でひとりぼっち」だったことが原因だと考えられる。悟は自らの行動によって、数日前からそういった状況を生じさせないようにしていた。

児童館で放課後を過ごし、6時半に帰途へ。そのとき、加代がいつも一人で板公園の横を通りかかった。

18年前、悟はアジトへ手袋をとりに行き、その帰り道に土手に座るユウキさんを目撃。その後、再び公園を通り過ぎたが、ひな月の姿はそこになかった。その時の要素を警察に伝えたが、相手にされなかった。悟はユウキさんに声をかけなかったことを後悔していた。

悟は加代の手を強く握り、「明日迎えに来るから」と伝える。

「また、明日ね」

「雛月に、雛月の母親に、近くで聞いているかもしれない誰かに向けて」悟は声をかけた。

 

悟は一睡もせずに朝を迎えた。

歴史を変えた証拠を確認したくて、朝ご飯も食べずに加代の家に向かう。

「バカなの?」

寝不足の顔で雪の中にたたずむ悟を見て、加代は言った。

 

昭和63年3月2日。

その日は悟の家で誕生会の予定だった。悟と加代はサンドイッチをつくる材料を買い込んで帰宅する。するとすでに悟の家で待ち構えていた友人と佐知子が、クラッカーを鳴らして二人を迎えた。

ケーキは悟と加代の二人分用意してあった。加代はプレゼント用意していたが間に合わなかったらしく、後で必ず渡すことを約束する。

友人達とサンドイッチを作り、二人はたくさんのプレゼントをもらった。

悟は加代に手袋をプレゼントし、加代は涙を流して喜んだ。

寄るまで騒いで、悟は加代を送って行く。

「今日はありがとう。プレゼント、明日渡すね。約束。おやすみ」

悟はXデーを乗り切った喜びにあふれていた。張りつめいてた気持が一気に緩み、帰宅後そのまま、倒れ込むように眠った。

しかし、翌日、加代は学校に来なかった。

加代と最後にかわした約束は、果たされなかった。

登場人物考察

雛月加代

悟と同じ学校に通う小学生。18年前に起きた連続児童誘拐殺人事件の最初の被害者。

母子家庭で母親から日常的に虐待を受けているが、それを隠している。担任教師もそれを把握しているが、まだ救済行動を実行できていない。

悟は、事件により踏み込むことを選び、そのためには加代との関係を深めることが重要だと考えた。結果、悟が積極的にアプローチをすることで、凍り付いていた加代の心は次第に氷解し、過去にはなし得なかった良好な人間関係を築くに至る。

八代学

悟たちの担任教師。端正な顔立ちと優しい振る舞いで生徒にも人気がある。

悟が認めるほどの観察眼を持ち、よく生徒達の関係性にも気を配っている。加代の虐待に気がつき、行政に働きかけを行なっているが解決には至っていない。

 

18年という巨大なリバイバルは、なぜ起きたのか?

悟の「リバイバル」という能力は、数分の時間を巻き戻り「事件や事故」を未然に防ぐチャンスが与えられるというもの。

今回起こったリバイバルは、これまでにない18年という年月をさかのぼり、悟は昭和63年生の世界で小学五年生をもう一度やり直すことになった。

これはつまり、現代で起きた「佐知子の殺害」という事件を未然に防ぐためには、昭和63年に起きた事件=児童連続誘拐殺人事件を解決する必要があるという意味だと推測される。

18年後の世界で見た佐知子の「安らかな顔」

現代で何者かに刺し殺された佐知子だが、その死に顔は悟に言わせれば「安らかな顔」だった。

佐知子が死の間際に見たのは愛する息子・悟と過ごした日々の記憶だった。その結果として現れた「安らかな顔」。それと同じ顔を悟は昭和63年の佐知子に見た。

親子二人で囲む食卓、何気ない会話と温かい夕食。悟が永遠に失ってしまった時間と「安らかな顔」。

それを何としてでも取り戻すと、悟は誓う。

文集の謎

友人のケンヤに言われ、悟は文集を開く。

加代の作文のタイトルは「私だけがいない街」だった。これは本作のタイトル「僕だけがいない街」と酷似していることから、物語全体に関わる重要なメッセージが隠されていると考えるのが妥当だろう。

その内容は、加代自身が、自分以外誰もいない遠い島に行ってみたいという願望を綴ったもの。

「私は私だけがいない街の事を考えると気持ちが軽くなる。遠くへ遠くへ行きたい」という文章は、悟が言うように、日常的な虐待という過酷な状況に置かれている加代が恐ろしい現実から逃げ出したいという潜在的な欲求の現れと考えられる。だが、それ以上の何かが、この短い文章の中にはあるのかも知れない。

また、悟自身が書いた作文の内容が出て来なかったことから、こちらも重要な内容が書かれているのだと考えて間違いないだろう。

佐知子の「サトリ」能力

佐知子はまるで、悟が考えていることはすべてお見通しと言わんばかりに、悟の思考を言い当て、行動の先回りをしてみせる。

悟はそれを「お袋のサトリみたいな観察眼」と評しているが、それが元で、現代では自身の犯行露見を恐れた真犯人に殺されてしまう。

悟が文集を見せなかったのも、そこに書かれた内容から当時の悟が考えている「何か」が母親に知られるのを恐れたためで、ますます何が記載されているのが重要になってくる。

なぜ悟の想いは声に出てしまうのか

リバイバル後の悟の特徴の一つが、「思っていることがいつの間にか声に出てしまう」というものだ。

そのおかしな症状のおかげで、加代への想いをストレートに伝えることができ、結果的に良好な関係形成に一役買った形になる。

だが、なぜこのリバイバルによってそのようなある意味「能力」が備わったのかは謎である。

 

「僕だけがいない街」感想・ネタバレ【3巻】 藤沼悟衝撃の逮捕も「信じること」で希望をつなぐ

過去に戻る能力「再上映(リバイバル)」によって過去に戻った藤巻悟は、工夫を凝らして連続児童殺害事件を食い止めようとするが失敗。雛月加代は、同じ未来をたどる。

計画失敗のショックで2006年の母親が殺害された直後に戻った悟は逃亡を開始。バイト先の店長を尋ねるが、警察に通報されて再び逃亡、そこで同僚の女子高生・アイリに助けられる。

アイリの下宿先にかくまわれた悟だが、店長に居場所を知られ、そこを離れる。その直後、殺されたはずの悟の母からメールが入り、アイリの部屋は業火に包まれる。

アイリを助け出す途中で力尽きた悟だったが、突然現れた店長にアイリを託し、自らは逃亡する。

その後、母親の元同僚だった澤田と接触。彼から、様々な情報を得ることに成功し、犯人に対する考察を深めていく。

入院していたアイリは、悟に会おうとして病院を抜け出すが、二人で密会していたところに警察が登場。

藤沼悟は逮捕される。

現実に引き戻された悟の孤独な闘いと現れた仲間

過去をやり戻すべく行動した悟だったが、結局、加代は殺害され、その後も児童の誘拐被害が続いた。歴史は繰り返されたのだ。

悟の計画は完全に失敗に終わり、そのショックからか、悟のリバイバルは解け、現実世界に引き戻される。

そこでは悟自身が殺人犯の汚名を着せられている。彼は逃げる覚悟を決めた。

巨大なリバイバルが起こった理由は?

悟は今回、「小学生時代に戻る」という巨大なリバイバルを経験した。

本人もその「きっかけ」がなんだか分かってはいない。

通常のリバイバルは、何らかの「事件」が起こる違和感を察知し、その「事件」の少し前に戻るというのがルールである。

それに照らし合わせれば、今回の「一連の事件」=「悟の母・佐知子が殺され、悟が犯人に仕立て上げられる」を解決するためには、悟が小学生時代までさかのぼって「何かを変える必要がある」ということなのだろうか?

店長の思惑と謎の男「西園」

悟とアイリが務める「Oasi Pizza」(oasiとはイタリア語でオアシスの意味)の店長は、警察とつながっており、家を訪ねてきた悟について警察にすぐさま通報した。

これは、悟への個人的な恨みというより、彼自身の性格による「正義の行動」だった可能性が高い。我々も知人が犯罪に加担している可能性が強いと判断すれば、警察に通報することも厭わないという状況は当然あるだろう。

店長について気になるのは、何か店の経営について便宜をはかってもらった(おそらく、信号や横断歩道の位置を変えた。あるいは新設した)らしい市議会議員の西園という男の存在だ。

彼らが話している内容によると、店長の父親は「優れた経営者」であり、影響力のある町会長でもあるらしい。その父親と西園は、お互いに世話を焼き合う間柄のようだ。

この西園という男は、アイリに対して特別な反応を見せていたが、まだその関係性は定かではない。

店長のアイリへの想い

店長は、アイリに対して部下ということ以上の特別な感情を持っているのは明らかである。

悟がアイリに家に匿われいた事実を突き止めた店長だったが、それを通報するところをアイリに見つかり、殴られ、罵倒される。

強すぎるアイリも問題だが、あれだけのことをやられてもなお、鼻血と涙を流しながら「ゴメン」と謝ってしまうのは、不思議でもある。

火事に襲われたアイリを助けたシーンにしても、おそらく家の様子を見に来るなどして、アイリのことを気にしていたから出来た行動だろう。

命を張って人命救助に向かった姿勢は素晴らしいが、そこにはアイリへの半ば屈折した想いが隠されていることを忘れてはならない。

「信じること」に強いこだわりを見せるアイリ

アイリは過去に、父親が冤罪に巻き込まれたことですべてを失い、失職、離婚をしていなくなってしまったことをトラウマとして抱えている。

事件後、父親と母親に対する強いわだかまりを抱えたいたアイリだが、「どうしてあの時信じてあげられなかったんだろう」という母親の言葉と共に気持ちをふっきり、「人を信じる事」を貫こうと決意する。

その信条が、今回の事件において悟を信じ、かばい続ける要因となっている。

だが、どうも店長は信じていないような気もするが...

ジャーナリスト澤田の登場で進展する事件

母の残した電話番号のメモは、かつてテレビ局時代に母と同僚だったジャーナリストの澤田につながる。

澤田と面会した悟は、新たな事実に遭遇する。

1.佐知子は殺害される前に澤田に電話していた

佐知子は「18年前の誘拐事件の真犯人が分かった」と言って、電話をしてきていた。

だが、待ち合わせ日の前に、佐知子は犯人によって殺される。

2.「別の犯人を用意する」という真犯人の特性

18年前の事件で犯人として逮捕された白石潤の他に、となり町でも誘拐事件の犯人が逮捕されているが、彼も白鳥同様に犯行を否認した。

そして今、悟自身が冤罪の犯人に仕立て上げられている。

つまり、真犯人は、「別の犯人を用意する」ことで自分をターゲットから外し、長い間、自らの罪を隠蔽し続けていたということだ。

なぜ、真犯人にはアイリを殺す必要があるのか?

悟が犯人として警察にマークされている以上、アイリを殺害する理由は、すでに真犯人の中にはない。

当然「犯人・藤沼悟」にも、警察につかまるリスクを犯してまでアイリを殺害する必要なない。

では、なぜ真犯人はアイリの家に放火したのか。

悟の推論は、「アイリが持っている犯人の情報を悟に渡さないため」の殺人計画だったのではというものだ。

真犯人は、悟とアイリの勤務先であるピザ店に出入りしていた。そしてそこで、アイリに顔を見られている。

故に、わずかな失敗の可能性をも消すために、アイリを殺害することにした。

アイリは母親の協力を得て、病院を抜け出し、悟に会いに行く。

そこで「西園」の存在を怪しい人物として伝えた。

藤沼悟逮捕、信じることで希望をつなぐ

アイリや澤田を事件に巻き込んでしまったと後悔する悟に、澤田は「責任を感じる必要はない」と断言する。

アイリが悟にしてくれた行為は、悟を信じたゆえの産物であり、それは「アイリが悟に与えたかったもの」でもある。

「信じること」が困難な状況に陥った悟にとって、頑なに「信じること」を貫くアイリの姿は、警察による逮捕という絶体絶命の局面になって初めて、彼に大きな力を与えた。

警察に連行される最中、悟は「君が信じてくれたから、俺はまだ頑張れる」とかつて憧れたヒーローの言葉を口にする。

彼の闘いは、続く。

 

「僕だけがいない街」感想・ネタバレ【3巻】 藤沼悟衝撃の逮捕も「信じること」で希望をつなぐ

過去に戻る能力「再上映(リバイバル)」によって過去に戻った藤巻悟は、工夫を凝らして連続児童殺害事件を食い止めようとするが失敗。雛月加代は、同じ未来をたどる。

計画失敗のショックで2006年の母親が殺害された直後に戻った悟は逃亡を開始。バイト先の店長を尋ねるが、警察に通報されて再び逃亡、そこで同僚の女子高生・アイリに助けられる。

アイリの下宿先にかくまわれた悟だが、店長に居場所を知られ、そこを離れる。その直後、殺されたはずの悟の母からメールが入り、アイリの部屋は業火に包まれる。

アイリを助け出す途中で力尽きた悟だったが、突然現れた店長にアイリを託し、自らは逃亡する。

その後、母親の元同僚だった澤田と接触。彼から、様々な情報を得ることに成功し、犯人に対する考察を深めていく。

入院していたアイリは、悟に会おうとして病院を抜け出すが、二人で密会していたところに警察が登場。

藤沼悟は逮捕される。

現実に引き戻された悟の孤独な闘いと現れた仲間

過去をやり戻すべく行動した悟だったが、結局、加代は殺害され、その後も児童の誘拐被害が続いた。歴史は繰り返されたのだ。

悟の計画は完全に失敗に終わり、そのショックからか、悟のリバイバルは解け、現実世界に引き戻される。

そこでは悟自身が殺人犯の汚名を着せられている。彼は逃げる覚悟を決めた。

巨大なリバイバルが起こった理由は?

悟は今回、「小学生時代に戻る」という巨大なリバイバルを経験した。

本人もその「きっかけ」がなんだか分かってはいない。

通常のリバイバルは、何らかの「事件」が起こる違和感を察知し、その「事件」の少し前に戻るというのがルールである。

それに照らし合わせれば、今回の「一連の事件」=「悟の母・佐知子が殺され、悟が犯人に仕立て上げられる」を解決するためには、悟が小学生時代までさかのぼって「何かを変える必要がある」ということなのだろうか?

店長の思惑と謎の男「西園」

悟とアイリが務める「Oasi Pizza」(oasiとはイタリア語でオアシスの意味)の店長は、警察とつながっており、家を訪ねてきた悟について警察にすぐさま通報した。

これは、悟への個人的な恨みというより、彼自身の性格による「正義の行動」だった可能性が高い。我々も知人が犯罪に加担している可能性が強いと判断すれば、警察に通報することも厭わないという状況は当然あるだろう。

店長について気になるのは、何か店の経営について便宜をはかってもらった(おそらく、信号や横断歩道の位置を変えた。あるいは新設した)らしい市議会議員の西園という男の存在だ。

彼らが話している内容によると、店長の父親は「優れた経営者」であり、影響力のある町会長でもあるらしい。その父親と西園は、お互いに世話を焼き合う間柄のようだ。

この西園という男は、アイリに対して特別な反応を見せていたが、まだその関係性は定かではない。

店長のアイリへの想い

店長は、アイリに対して部下ということ以上の特別な感情を持っているのは明らかである。

悟がアイリに家に匿われいた事実を突き止めた店長だったが、それを通報するところをアイリに見つかり、殴られ、罵倒される。

強すぎるアイリも問題だが、あれだけのことをやられてもなお、鼻血と涙を流しながら「ゴメン」と謝ってしまうのは、不思議でもある。

火事に襲われたアイリを助けたシーンにしても、おそらく家の様子を見に来るなどして、アイリのことを気にしていたから出来た行動だろう。

命を張って人命救助に向かった姿勢は素晴らしいが、そこにはアイリへの半ば屈折した想いが隠されていることを忘れてはならない。

「信じること」に強いこだわりを見せるアイリ

アイリは過去に、父親が冤罪に巻き込まれたことですべてを失い、失職、離婚をしていなくなってしまったことをトラウマとして抱えている。

事件後、父親と母親に対する強いわだかまりを抱えたいたアイリだが、「どうしてあの時信じてあげられなかったんだろう」という母親の言葉と共に気持ちをふっきり、「人を信じる事」を貫こうと決意する。

その信条が、今回の事件において悟を信じ、かばい続ける要因となっている。

だが、どうも店長は信じていないような気もするが...

ジャーナリスト澤田の登場で進展する事件

母の残した電話番号のメモは、かつてテレビ局時代に母と同僚だったジャーナリストの澤田につながる。

澤田と面会した悟は、新たな事実に遭遇する。

1.佐知子は殺害される前に澤田に電話していた

佐知子は「18年前の誘拐事件の真犯人が分かった」と言って、電話をしてきていた。

だが、待ち合わせ日の前に、佐知子は犯人によって殺される。

2.「別の犯人を用意する」という真犯人の特性

18年前の事件で犯人として逮捕された白石潤の他に、となり町でも誘拐事件の犯人が逮捕されているが、彼も白鳥同様に犯行を否認した。

そして今、悟自身が冤罪の犯人に仕立て上げられている。

つまり、真犯人は、「別の犯人を用意する」ことで自分をターゲットから外し、長い間、自らの罪を隠蔽し続けていたということだ。

なぜ、真犯人にはアイリを殺す必要があるのか?

悟が犯人として警察にマークされている以上、アイリを殺害する理由は、すでに真犯人の中にはない。

当然「犯人・藤沼悟」にも、警察につかまるリスクを犯してまでアイリを殺害する必要なない。

では、なぜ真犯人はアイリの家に放火したのか。

悟の推論は、「アイリが持っている犯人の情報を悟に渡さないため」の殺人計画だったのではというものだ。

真犯人は、悟とアイリの勤務先であるピザ店に出入りしていた。そしてそこで、アイリに顔を見られている。

故に、わずかな失敗の可能性をも消すために、アイリを殺害することにした。

アイリは母親の協力を得て、病院を抜け出し、悟に会いに行く。

そこで「西園」の存在を怪しい人物として伝えた。

藤沼悟逮捕、信じることで希望をつなぐ

アイリや澤田を事件に巻き込んでしまったと後悔する悟に、澤田は「責任を感じる必要はない」と断言する。

アイリが悟にしてくれた行為は、悟を信じたゆえの産物であり、それは「アイリが悟に与えたかったもの」でもある。

「信じること」が困難な状況に陥った悟にとって、頑なに「信じること」を貫くアイリの姿は、警察による逮捕という絶体絶命の局面になって初めて、彼に大きな力を与えた。

警察に連行される最中、悟は「君が信じてくれたから、俺はまだ頑張れる」とかつて憧れたヒーローの言葉を口にする。

彼の闘いは、続く。

 

「僕だけがいない街」感想・ネタバレ【4巻】 雛月加代救出成功で未来は大きく変わるのか?

1度は失敗した雛月救出を見事に成功させた裏には、いくつかの重要な要素が隠れている。

ケンヤという協力者

頭脳明晰な同級生のケンヤにによって「悟」は「以前の悟」でないことが分かってしあmった。

「悟、お前は何者なんだ?」と問いかけるケンヤに「正義の味方になりたい人」と答えた悟。

その瞬間、ケンヤは悟のことを信じ、彼に協力することを決めた。

積極的なしかけ

前回のリバイバル以上に雛月に対して積極的なアプローチを行い「本人を誘拐する」という大胆な行動に出た悟。

それと同時に、母・佐知子や担任である八代の力を借り、雛月が殺されてしまった根本原因である「虐待・ネグレクトの母親」を排除することに成功した。

当たり前の朝食に涙する加代に涙

雛月加代が、悟の家に泊まった翌朝のこと。

ごはん、みそ汁、卵焼き、ウインナーというありふれた朝食を目の当たりにした加代は、涙を流して喜んだ。

これまで、ネグレクトの母親によって、パン1枚、カップラーメン、二百円硬貨という血も涙もない残酷な朝食ばかりを経験してきた加代にとって、この「家族の温もりと愛情」が感じられる朝食がどれだけ幸せなものに思えたことか。

4巻は、加代を救うという展開上、ネグレクトの母親・明美を追いつめる物語でもある。

夫の暴力にさらされた末、離婚し、シングルマザーとなった明美。

なぞ、私だけ不幸なのか?私は幸せになってはいけないのか?

これまでの苦労と不幸な身の上に対する怒りやいら立ちは、すべて「最も身近な弱者」である加代に向けられた。

それは、同じく母子家庭ながら、清く明るく生きている藤沼親子との対比によって、さらに明と暗がくっきりと別れることになる。

真っ白に染まった雪景色の白は、加代の未来を、そして悟の未来をも白く塗りつぶし、未来への可能性を強く印象づけたラストとなった。

加渡島建設事務所の倉庫にいた男=真犯人

オープニングで語られた、悟が幼児時代のエピソード。

母親が働いてた加渡島建設の事務所外で母親が仕事を終えるのを待っていた悟。

そこへやってきた知り合いの少女であるアツコが、物置小屋に入って行く。中には、連続誘拐殺人犯と同じ目をした男の影が。

悟は彼女と遊びたくて、しつこくアツコの名前を呼んだ。

アツコはすぐに外へ出て来た。

そこで悟は「誰も知らない。誰にも気付かれない正義」を成し遂げていた。

小屋の中にいた男は、悟が2006年に逮捕された時に見物していた男、ショッピングセンターで女の子を誘拐しようとした男と同一人物である可能性は高い。

つまり、一連の誘拐殺人事件における真犯人であるということだ。

おそらく、アツコも真犯人のターゲットだったのだろう。

しかし、彼が犯行に及ぶ前に、悟の手に寄ってアツコは救出された。

それが、悟が果たした「正義」であった。

 

「僕だけがいない街」感想・ネタバレ【5巻】 真犯人は「あの男」に確定!最大の危機に陥った悟の運命は?

時間逆行型ミステリー「僕だけがいない街」5巻の感想ネタバレ分析レビュー。

元の世界では、真犯人に殺されるはずだった雛月を救う事に成功した悟だったが、「加代ロス」という喪失感に苛まれていた。

しかし、第二の被害者である中西彩を救うべく奔走するうちに、真犯人「八代学」の毒牙にかかり最大の危機を迎えてしまう。

リバイバルが解けない原因は?

雛月が「殺されない」という現実を作った後も、リバイバルが解けて2006年に戻らないということは、リバイバルの原因である「佐知子の死」という問題は、このままでは解決されないといことだろう。

つまり「雛月は死亡する」という過去は変えたが、相変わらず真犯人は野放しとなっている。その犯行の過程で佐知子や、真犯人が誰だか気付くことになり、結果として殺されてしまうということなのだろう。

つまり、リバイバルを終わらせて2006年に戻るには、「真犯人をつかまえる」あるいは「真犯人の犯行を完全に止める」必要があるというということだ。

別の地で起こる誘拐事件と練炭

弁護士であるケンヤの父親が担当している北海道C市の女児殺害事件。

犯人として実父が逮捕されているが、状況から見て、これも真犯人の犯行で間違いないだろう。

幼女を狙い、別の犯人を作って自分は逃げ果せるという手法がまったく同じである。

また、女児を殺害した方法が練炭によるものだったことから、悟は雛月をかくまっていたバスに置いてあった練炭を思い出し、そのつながりから真犯人の犯行であると確信した。

身代わりの犯人をつく周到さ

真犯人の特徴の一つが「必ず身代わりの犯人になる人物を作る」ということだ。

次のターゲットである中西彩の場合もすでに、彼女に公園で接触している白鳥がその候補に選ばれていることだろう。

逆を言えば、白鳥(親子ともに)という存在があるからこそ、「真犯人は中西彩をターゲットのまま外さない」ということでもある。

もちろん、別の障害、例えば雛月の場合における「悟の存在=雛月の孤独を解消することによって犯行のチャンスを消した」のようなものが出現すれば、真犯人はあっさりターゲットを諦め、別の少女を物色することだろう。

靴の滑り止めから分かる犯人像

北海道の冬は当然ながら雪が大量に降る。そこで、革靴の底に滑り止めシールを貼るのがスタンダードだ。

雛月をかくまったバスの中にあった犯人の足跡にも滑り止めが貼られていたことは、悟が確認している。

つまり犯人は、「普段スーツで革靴を履いている」ということになる。

澤田の分析

佐知子の同僚である澤田の分析によれば、「真犯人は何人ものターゲット用意し、少しでも危険を察知すれば、別のターゲットに切り替えて犯行に及ぶ」タイプである。そして真犯人は「事件の容疑者までも別に用意する」という周到さである。

悟の行動によって、雛月、そして中西彩が「このリバイバルの世界」においては、真犯人のターゲットから外れたと考えて良いだろう。

悟は考える。2006年に佐知子は、澤田に対して「真犯人が誰だか分かった」と話していた。そこから考えると、真犯人はこの1988年の時点でおそらく、「佐知子が知っている人物」ということになるのだろう。

澤田による真犯人プロファイル=八代学?

澤田のプロファイルによると、真犯人は20〜30台、決断力も柔軟性も併せ持つ若くて頭のいい男。

身長170cm以上、体重70kg前後、というもの。

このプロファイルを見て思い出すのは、八代学以外にあり得ないと思うのだが...

悟に仕掛けられた罠

最近孤立気味の同級生・美里(給食費紛失事件から孤立)を心配していた悟は、一人でアイスホッケー場にやって来る。

美里がトイレから出ているのを待っていたがなかなか出てこず、搬入口から顔を出してみると白鳥食品のトラックが走り去るところだった。

妙な胸騒ぎを覚えた悟のところに、タイミングよく八代がやってくる。いかにも怪しい。

美里が白鳥食品の車に乗っているかどうかを確かめるため、悟は八代の車で追いかける事に。

ダッシュボードの中にあるはずの飴をとろうとした悟だったが、出てきたのは下剤だった。

八代は「これ、僕の車じゃないんだ」と言って、あの「真犯人の目」をして笑った。

真犯人は八代学に決定

これで「八代学犯人説」は確定となった。

下剤はおそらく、美里が飲んでいた飲物に混入したのだろう。

彼女がなかなか出てこないところへ八代が登場し、おそらくこれも用意してあったのだろう白鳥食品の車を「一緒に追いかける」というシチュエーションを作り出した。

恐るべき計画性である。

八代がかたった「善行も悪行も本質は同じ。人が自らの欠陥を補うための行いに過ぎない」という言葉に注目したい。

悟が「雛月を救う」という善行によって「母の死がある未来」を補い、変えようとしたのに対して、

八代は児童を誘拐し、殺害するという悪行によって「自らの欠陥」を補おうとしたのだろう。

悟の運命は?八代学の動機、「自らの欠陥」とは?

 

「僕だけがいない街」感想・ネタバレ・考察【6巻】 殺人鬼・八代学誕生の秘密。15年眠った悟の前に現れたアイリの正体は?

僕だけがいない街(6)<僕だけがいない街> (角川コミックス・エース)

時間逆行型ミステリー「僕だけがいない街」6巻の感想ネタバレ考察レビュー。

真犯人・八代学の手によって川底に沈められた悟が昏睡状態から目覚めたとき、すでに15年の時が経過していた。苦しいリハビリを続ける悟のもとに、なんとアイリがやってくる。

「僕だけがいない街」31話「敗北」

八代の策略にはまった悟は、茫然と目の前にいる男の話を聞いていた。

八代は、悟が「誘拐犯が居ると確信して行動している」と指摘した。

悟によって、雛月加代、中西彩という二人のターゲットの誘拐を阻止されたことで、八代は「これは偶然ではない」という疑念を深めていた。

そこで、その仮説を立証するために策を講じた。

一人孤立していた美里にアイスホッケー観戦を勧め、その情報を加代経由で知らせる。「美里が次のターゲットになり得る」と悟が考えるようなことがあれば、会場に悟が姿を見せるはずだと。

結果、悟はまんまと会場に姿を見せ、そして八代の「敵」だと認定された。

美里に下剤を飲ませ、白鳥商品の弁当を注文する。そして、悟の導き、車に乗せることに成功した。

悟の行動は、確実に八代の行動に影響を与えていた。

加代に対して積極的なアプローチを行ったことで、八代は加代をターゲットから外さざるを得なくなった。中西彩についても同様である。

泉水小のバスの中にあった「誘拐の道具」と思しきバックも、八代のものだった。

深追いをし過ぎた悟は、まんまと美里を使った八代の罠にはまり、「誘導」された。

雛月を軟禁されている物置か連れ出せる人物は?と考えたとき、最も確実なのは、雛月が大人しく従う程の「顔見知り」であるということだ。

そのほかにも様々な状況を精査していけば、真犯人=八代という結論に到達するのは、悟曰く「明白」だった。

2006年に澤田の事務所で見た「容疑者リスト」の中にも八代の名前はあったが、同時に母・佐知子の名前もあったことで、リストの重要性は低くなってしまった。

八代の教師としての振る舞いや考え方に共感すらしていた悟には、「真実」を見抜くことはできなかった。

 悟の死に求めた代償

八代は車に悟を一人の残し、冬の冷たい川に車を水没させた。

八代にとってそれは計画を邪魔された「復讐」ではなく、「欲望が満たされなかった事の代償行為」であるという。

つまり、悟に恨みはないが、「加代や中西彩を誘拐・殺害できず、満たせなかった欲望」は「悟を殺すこと」で満たすということである。

八代は、悟も自分自身も「ゲームオーバー」だと言ったが、二人にとってその言葉の意味は大きく違う。

悟にとっての「ゲームオーバー」は、車と一緒に川へ水没しての溺死。

八代にとっての「ゲームオーバー」は、「この街での犯行を止める」ということであって、彼は異なる土地に移住し、再び誘拐・殺人を繰り返すことになる。

悟は、自らの行動の「代償」として「街の平和」を得て、八代は自らの手による、自分だけの「死」=悟の死を手に入れる。

それは八代って「心の中の足りない何かを埋める」ことであり、「最高に幸せな瞬間」なのだ。

 

「僕だけがいない街」32話 「蜘蛛の糸」

この回では、八代学が「連続殺人鬼」へと変貌するきっかけとなった小学生時代のエピソードが展開される。

八代には2歳年上の兄がいた。兄は、幼いころから暴力的で問題児だった。

兄に見切りをつけた両親は、成績優秀だった学に期待し、溺愛するようになった。

両親の干渉が減った兄は、暴力のはけ口を弟の学に求めるようになった。それは、兄自身の「心の穴」を埋めるための「代償行為」だった。

その後、兄の「代償行為」は暴力から、女児への性的いたずらへと変化していく。

学は、兄の求めに応じて、「女児を調達する係」を担うことになる。

そこで学は、将来の犯罪へと通じる「上手く女児を誘い出す術」を身につけていく。

狙うのはひとりぼっちの女児

相手が興味を持つ話題で警戒を解く

常にリサーチをして、ストックを用意しておく

これらの方法論はすべて、八代の犯行に共通するものである。

小説・蜘蛛の糸

そのころ、八代少年は芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」に出会う。

地獄に落ちた極悪人のカンダタが、「一匹の蜘蛛」を助けたという唯一の善行により、釈迦から「一本の蜘蛛の糸」という地獄から抜け出すチャンスを与えられる。

カンダタは蜘蛛の糸をのぼり始めるが、後を追ってきた亡者たちを「これは俺の糸だ」と蹴り落とした。

すると糸は切れ、カンダタは再び地獄の底へと堕ちていった。

八代少年は考える。

「もし、カンダタの足元で糸が切れていたら、その時、釈迦はどうしていただろう?釈迦はカンダタの行動を予測できていたのでは?だとしたら、本当にただの気まぐれで糸を垂らしたのだろうか?

カンダタは毎日空を見上げるようになるだろうか?それとも地獄においてさえ他人に優しくなるだろうか?」

釈迦になり、蜘蛛の糸をたらす

八代はこの物語をいじめられている下級生とのエピソードになぞらえて語っている。

八代少年が小学生(白鳥潤に似ているが、同一人物か?)に語った「靴をあげる」という行為は、つまり釈迦が垂らした「蜘蛛の糸」と同じである。

それは、兄へのストレスに対する「代償行為」でもあり「気まぐれ」でもあったと本人は認識しているが、「蜘蛛の糸」の影響があったことは間違いない。

その後、処分を引き受けた大量のハムスターを水の入った大瓶に放り込むという連続殺人を行うような「異常犯罪者」にありがちな「動物への傷害行為」に手を染めた八代少年。

しかし、おぼれ死んだ仲間を踏み台にして一匹だけ生き残ったハムスターがいたことに「正直シビ」れ、「スパイス」と名付けて飼育することにした。

殺人鬼・八代学を作り出した原点となる事件

ある日、八代少年と兄の秘密の生活はあっけなく瓦解する。

兄があやまって女児を殺害してしまったのだ。

「学、お前、なんてことをしてくれたんだ?」

この兄の言葉を八代少年は「見張りを怠ったこと」だと認識していたが、それは違うと後で気付く。

二人は女児を物置の中に隠し、その場を後にする。

八代少年は入口においてあったスパイスのおやつである「ひまわりの種」がなくなっていることから、兄の言葉の真意に気が付く。

兄は、学に女児殺害の罪をなすりつけようとしていた。その証拠となるのが、ひまわりの種である。おそらく、女児を入れた木箱の中にひまわりの種も隠してあるのだろう。

その真意を知った八代少年の目には、兄の頭の上に垂れ下がる「蜘蛛の糸」が見えた。

八代学は「自分が何をするべきなのか決断していた」

八代=蜘蛛の糸を操る釈迦という図式

八代少年は、この場合、釈迦である。

罪深きカンダタ=兄に蜘蛛の糸を垂らした。彼を救うべきか、救わざるべきか。

その判断は、八代少年にゆだねられた。

八代少年は、法医学の文献を読み、ちゃくちゃくと準備を進めていく。

そして、蜘蛛の糸を断ち切った。

女児殺害犯の兄は、罪の意識にさいなまれて「自殺」し、事件は終焉を迎えた。

事件後、両親は離婚し、八代少年は母と暮らすようになる。道内の大学を卒業し、教員として街に戻ってくる。

そこで八代学は「抑え続けてきた衝動」を解放する。

最初のターゲットは、あの「アツコ」だった。

建設会社の物置に彼女を呼び出すまでは良かったが、外にいた悟の「正義」によって、計画は失敗してしまう。

やはり、あの倉庫の中にいた男は、八代学だった。

自らの頭に垂れた蜘蛛の糸

驚くべきことに、八代学には婚約者がいた時期があった。

相手は二歳年上の心理カウンセラー。勉強会の講師と生徒として知り合い意気投合。八代は「生きていく上で役に立つ知識の話」を聞けることをメリットと考えていた。彼女の専門は「児童心理」。つまり、八代は「女児を誘拐し殺害するための効率的かつ効果的な方法」を習得する知識を得るための「頭脳」として彼女を必要としていた。また、「女児専門の誘拐殺人犯」という本性を隠す隠れ蓑としても利用していたが、彼女自身にはまったく興味がなかった。

八代は「気づいて」いた。「兄」が自分の「中に居る事」に。

やがて、彼女は「八代の正体」に気が付く。

彼女の頭の上に現れた「蜘蛛の糸」を、八代は当然のごとく切り落とした。

そして八代は、自らの頭の上にも「蜘蛛の糸」が垂れていることに気が付く。

この蜘蛛の糸は、これまで「釈迦の立場」で糸を「切る」側だった八代が、「糸を切られるかもしれない側」にまわったことを意味する。

この糸は、八代の「潜在意識」の中にだけ存在するものであり、それは八代の心を映す鏡でもある。

これまで、女子児童のみをターゲットにしてきた八代が、ついに、自らの欲望を満たすため以外の理由で殺人を犯した。

八代の中で、一つの「臨界点」を越えた瞬間がそこにあったのだろう。

彼は、釈迦からカンダタへと姿を変えた。

それでもなお、いつかのハムスターのように、いくつもの屍の上を渡り歩き、八代は自らの欲望に忠実に、犯行を重ねていく。

それこそが八代の「生きるということ」だから。

「僕だけがいない街」33話「目覚め」、34話「閉ざされた扉」、35話「鍵」

時は流れ、2003年8月。

長く昏睡状態だった藤沼悟が目を覚ます。

 

弁護士となったケンヤがまとめたファイルによって、八代の毒牙にかかり川へ突き落された後の悟がどうなったのかが判明する。

悟は偶然にも近くを通りかかった獣医によって救出されたが、植物状態となった。

「真犯人」は結局捕まることなく、事件はうやむやとなったが、ケンヤと父親は今も「真犯人」を追い続けている。

 

悟は15年の間眠っていた。そして、多くの記憶を失っていた。もちろん、八代との一件も覚えてはいなかった。

それは固く閉ざされた「記憶の扉」だった。

母・佐知子による15年にも及ぶ献身的な介護によって、悟の身体能力は奇跡的に保たれていた。

現れた同級生

ある日、弁護士になったケンヤと医師のインターンをしているヒロミが見舞いに来た。その時、佐知子はケンヤから事件の詳細を記したファイルを預かっていたが、悟に渡すことはなかった。

その二か月後、リハビリを続けていた悟のもとに、子供を抱いた加代がやってくる。加代はヒロミと結婚していた。

悟は記憶を失っているため、自らが人生のどん底から救い出した加代を「ロクに会話をしたことがなかった女子」としてしか認識していなかった。しかし、「おめでとう、加代」となれなれしく話しかけてしまうのは、心のどこか、おそらく扉の向こう側に「失った記憶」がしまわれているからだろう。

悟は「リバイバル」の記憶も失っている。

そのため、加代に対して2006年に澤田から言われた言葉をそのまま伝えていたり、絵が非常に上手かったり(2006年当時の悟は漫画家をしている)、平成という年号に違和感を覚えなかったり、正家区政が知り得ない言葉を読み書きできたりと現在の本人にとっては不可解な現象が頻発する。

そんな生活の中で、悟に大きな変化がやってくる。

悟が病院の庭で同じく患者の少女と話をしているとき、悟をつけねらうパパラッチが写真を撮っていると、そのカメラをひったくり、カメラマンを殴りつけた少女がいた。

それは、かつて悟の唯一の味方になってくれたアイリだった。

アイリを見た瞬間、悟の心の中にある「閉ざされた記憶の扉」のカギが開いた。

唐突に出てきた修学旅行の話の謎

加代が話した、中学3年生の時の修学旅行に行ったエピソード。

ケンヤが仲間と不良のケンカを仲裁して血まみれになり、ヒロミがワセリンで止血したというものだ。

悟には当然記憶がなかったが、頭の中に映像が見えるほどはっきりと、そのシーンが浮かび上がってきたという。

それはつまり、「悟は過去にヒロミが生きている世界で中学生になり、修学旅行に行ったことがある」ということを意味している。

今、悟が生きている世界は、2度目のビッグリバイバルによってやってきた1998年の延長線上にあるのだと考えていたが、どうやらそうではない可能性が浮上してきた。

つまり、八代によって川底に沈められた悟だったが、何らかの要因でその危機を抜け出し(またもリバイバルかもしれない)、新たに「異なる人生を生きなおした」ということだ。そのいくつ起きたかわからない「新しい人生」のサイクルの中では、「中学3年生」になったことがあったのかも知れない。

しかし、結局、最終的には八代によって川底に沈められ、リバイバルのすべての記憶が「扉の奥」にしまわれてしまった。

そうでなければ、悟が「ヒロミが生きている世界で中学3年生になり、修学旅行に行く」ことはあり得ないのだ。

アイリも「リバイバル」をしている可能性

唐突に現れたアイリによって、悟の記憶を閉ざしていた扉の鍵は開けられた。

6巻最後のアイリの表情を見る限り、アイリは「悟のことを知っている」というように見える。そもそも、この世界では何のつながりもないアイリが、悟のところにやってくるということ自体不自然だ。

だが、「アイリのリバイバルを体験している」とすれば、つじつまが合わなくもない。

2006年の事件を経験したアイリがリバイバルの末、この1998年から始まった世界に現れたとしたら。もちろん、「2006年の記憶」を持った状態でである。

だとすれば、「すべてを知っているアイリ」が悟が目覚めたことを知り、「悟を助けに来る」ことは十分に考えられる。

急展開を見せる物語に目が離せない。

 

「僕だけがいない街」感想・ネタバレ・考察【7巻】 殺人鬼・八代はやはり西園議員だった!覚醒した悟に迫る毒牙再び!

僕だけがいない街(7)<僕だけがいない街> (角川コミックス・エース)

 

時間逆行型ミステリー「僕だけがいない街」7巻の感想ネタバレ考察レビュー。

殺人鬼・八代学によって水底に沈められた悟は一命をとりとめ、15年ぶりに目を覚ました。記憶の一部を失いながら、母親や友人のサポートを受けてリハビルを行う覚の前に、運命の女性・アイリが姿を現す。一方、悟の覚醒を知った八代=西園議員は、再びどす黒い感情が己の中に渦巻いているのを喜々として感じていた。

「僕だけがいない街」36話「始まりの地点2005.05」の考察

リハビリの最中、病院の庭で悟は、アイリと運命の再開を果たす。

悟はアイリと過ごした記憶を失っている。

しかし、悟は確信した「僕はこの娘を知っている」。

何か話しかけろと自分に言い聞かせるが言葉が出ない。

悟を隠し撮りしていたマスコミ関係者を殴り飛ばしたアイリに礼を言うと、

アイリは「目の前のことに全力で踏み込むのがモットーなんで」と笑う。

その言葉に、失われていた記憶が刺激される悟。

アイリは、世界中を回って大好きな空の写真を撮りたいと夢を語る。

その時、悟の体内をかつての記憶が濁流となって流れていった。

悟は突如気を失い、再び眠りの海に沈んでいった。

夢の中のリバイバル。修学旅行の記憶

悟は子供の頃の記憶を夢の中で再生していた。

悟自身は「これは夢の中なんだろうか?とても懐かしい感じがする」と語る。

中学校時代の修学旅行、友人が他校の生徒と揉め事になり、ケンヤが仲裁に入る。

この後、ケンヤが木刀で頭に怪我をする。

事実をなぞるとすれば、そこで「ヒロミ」がケンヤの傷にワセリンを塗ることになっているが、

夢の中でそれをしたのは「悟自身」だった。

そこにヒロミはいなかった。

いないのは、ずっと昏睡状態で眠っていた「悟」のはずではないのか?

ここで悟は気づく、

「これは僕の記憶だ」と。

 

つまり、15年眠っていた悟が今生きる時代の記憶ではなく、

かつてリバイバルが起こる前に悟が体験していた「僕自身の記憶」ということだ。

その世界では、ヒロミは八代によって殺されており、修学旅行には当然ヒロミは存在しない。

そう認識した途端、忘れていた「僕の記憶」が次々と蘇る。

「悟の記憶」の中では、ヒロミも雛月も中西彩もすべて八代に殺されていた。

つまり、「リバイバルで失敗した時の記憶」ということだ。

しかし、今現在、少なくともヒロミと雛月は生きていて、夫婦として幸せに暮らしている。

ということは、ケンヤの残したファイルの通り、「悟が二人を救った」ということに間違いはない。

「僕の中には二通りの記憶がある。僕は同じ時間を繰り返し生きた?」と

悟はリバイバルの存在を疑い始める。

 

バラバラになった記憶の断片をつなぐ鍵は何処に?

母が殺されているシーンで目を覚ました悟。

動かない体、うまく出せない声。

隣で寝ていた母親によれば、悟は1年近くまた眠り込んでいたのだという。

 

タイトル「僕だけがいない街」の意味

悟は前向きにリハビリに取り組むようになり、歩行器をつかって歩く練習を始めた。

「僕には取り戻さなくてはならない記憶がある」

そして、「その記憶の始まりは未来」である。

「失敗した過去があって、やり直して成功した現在がある」

つまり、それこそが「リバイバル」を繰り返し、苦心して八代の犯罪を止めようとした悟の苦難の道である。

ここで言う「成功」とは、ヒロミと雛月が殺されなかった「今、悟が生きる世界」のことだ。

悟は「この成功を完成させる」ためには「始まりの記憶にたどり着く」必要があると考えていた。

「はじまりの記憶」とは、つまり本作1巻から語られてきた、悟によるリバイバルと高いの日々の記憶だろう。

「僕がくり返し生きた街」=「殺人事件が起こらなかった街」=「僕だけがいなくなった街」

ここでタイトル「僕だけがいない街」の意味がはっきりした。

度重なるリバイバルによって、自らは昏睡状態に陥りながらも、

八代による殺人から友人を守り、その結果として自分=僕だけが存在しなくなった生まれ故郷の街=歴史=時間。

その「僕だけがない街」で起きたすべてを完結させるために、悟は「始まりの記憶」が必要だと考えている。

そして、その始まりの場所にはあの娘=アイリがいると確信していた。

アイリに会いたい。

その想いを胸に、悟は一人歩き続ける。

 

15年ぶりに目を覚ました息子が再び意識を失い、いつ終わるとも分からない眠りの中に埋没してしまった。

それでもなお、息子の帰還を信じて看病を続けた母・佐知子の大きすぎる愛と忍耐には、驚きを隠し得ない。

 

「僕だけがいない街」37話「足音 2005.07」の考察

悟が再び目覚めてから2ヶ月が経った。

彼は精力的に歩行の訓練を続けている。

それを見守る母・佐知子も心なしかうれしそうだ。

その佐知子の独白でストーリーは展開する。

17年前、悟を水底に沈めた犯人を佐知子は心から憎んだ。

しかし悟が「生きていることに感謝」し、周囲の人々のサポートもあって、

「悟の元気な姿を見ていたい」という夢を持つことができた。

それが15年以上に続く看病を可能にした原動力であろう。

 

独白の主が変わり、八代再び。

「このまちに来てもう何度目の夏を迎えただろう?」

このセリフから、独白の主は佐知子から八代へと変わる。

「悟が眠ってしまったことでひとりぼっちになったのだと実感する自分がいた」

と八代は語っている。

自分が何者で何をすべきかを見失った八代は、シンプルな答えに行き着く。

それは「悟の側に居続ける事」。

八代は眠り続ける悟の姿を「目に焼き付け」、「息遣い鼓動」を側に感じて「日々を過ごし」ていたのだという。

悟の現状に絶望しつつも、「悟は必ず目をさます」という「希望」を持ち、「もう一度、自分と悟の未来を感じる瞬間が欲しい」と願った。

十数年が過ぎ、「待ち焦がれた日」がやってくる。

「悟が目覚めた!」と歓喜する八代は「もうひとりぼっちじゃない。嬉しくて涙が止まらなかった」。

八代は、初めて病院の庭に出た悟の姿を眺め、「正直シビレタ」という。

八代は悟の姿を見たことで、「この十数年感じなかった高揚感」が自分の中に満ちていくのを感じた。

それを待ち望んでいたという八代は、過去に「唯一殺すことができなかった」悟がそれを与えてくれたのだと信じていた。

それとは「歓喜と戦慄」だという。

八代は、悟が「生きている事」に感謝し、悟を「スパイス」と呼ぶことを決めた。

 

そして八代は行動を開始する。

悟が目覚めたと同時に八代の「中に閉じ込められていたある衝動も目覚めた」のだという。

八代は「新たな季節(シーズン)の始まりだ」と宣言して、不敵な笑みを浮かべた。

 

悟殺害失敗後の八代は失望の人生?

悟の殺害に失敗した後、八代は治療のために東京近郊へ移り住んだ親子を追ってきたものと考えられる。

そして、悟の病状を逐一確認し、彼が目覚めないことに絶望していた。

自分で悟を水底に沈めておきながら、このような感情を抱くことにはもちろん疑問を抱くが、

それこそが八代の屈折した内面の複雑性なのかも知れない。

失って初めて、そのものの大切さに気づくというのはよくあることだが、

「殺人の失敗」という八代にとって唯一かつ衝撃的なサンプルである悟を失った=目覚めないことが、

八代になぜそれほどの感情の変化をもたらしたのかは判然としない。

ただ、悟の事件が起きたことで、八代がこれまでのような「殺人衝動」を感じなくなってしまったのは事実のようだ。

その意味で八代にも大きな変化があったということだろう。

 

しかし八代は、悟が目覚めたことで再び、過去のどす黒い思想を取り戻し、

悪魔のような本性を現し始めた。

悟をかつて自らが溺愛していたハムスターの「スパイス」と同じ名前にした裏に、

八代の黒い歓喜が見え隠れしている。

 

「僕だけがいない街」38話「足音 2005.07」の考察

リハビリを続ける悟の目的は、「真実を明らかにすること」に他ならない。

未だおぼろげな記憶の中で、様々な人々にかけられた言葉の数々を思い出しながら、

自問を繰り返す。

悟の後を受けたケンヤと澤田は、今も真犯人=八代を追い続けている。

二人には、真犯人の「めぼし」はついているが、「決め手」には欠けるらしい。

悟は、自らの記憶が復活することへの期待、それと同時に過度なプレッシャーをかけまいとしているケンヤ達の愛情を感じていた。

「僕だけの記憶を取り戻す」

悟の決意は固い。

 

中央総合病院への支援活動をする西園=八代の思惑

八代がどういう経緯で議員の職を得たのか、名前を変えたのかは不明だが、

彼は現在「西園」として市議会議員の職にあるようだ。

地方の市議会選挙など、ほとんど定員割れのような状態で「出れば受かる」ということも珍しくなく、

市議議員になるハードルは低いと思われる。

 

一緒にいた秘書らしき人物の話によると

西園は悟が入院する中央総合病院へ助成金を送るための活動をしていたらしい。

「例の補助装置」というのは、もちろん悟のリハビリを助けるものだろう。

西園は本気で「悟=スパイス」の復活を望んでいるのだ。

 

アイリを求める悟

以前、アイリに出会ったことで記憶の断片が見えた経験から、

失われた記憶を取り戻すカギはアイリにあると悟は考えている

どうやったらアイリに再び会えるのか。

記憶の断片からたぐり寄せた携帯番号は、おそらくアイリのものであると推測できた。

しかし、その番号にかけたところで、何と話せばよいのか、悟には分らなかった。

そんな時、かつて悟の友人だったユウキさんからの手紙を読んで、

悟は自分の足でアイリに会いに行こうと決意する。

 

「僕だけがいない街」39話「愛梨 2005.08」の考察

主治医からの許可と遠まわしの激励を受け、悟は松葉づえを持ち、一人で外出した。

目的はもちろん、アイリに会うことだ。

目の前を猛スピードで通り過ぎたトラックに、かつて自分がリバイバルによって事故を未然に防ごうと、ピザ配達のバイクでトラックに激突したことを思い出した。

それをきっかけに、アイリと過ごした日々を次々と思い返す。

 

たどり着いた駅で、アイリの姿を見つけた。

「とても大切な時間だった。

そして思い出したよ。

君がとても大切な女性だった事を」

アイリに声をかけようとした悟の脳裏に、業火の中に倒れているアイリの姿が蘇る。

そして、自分が逮捕され、連行されている姿を見送るアイリの涙。

悟は、アイリに向かって差し出しかけた右手を押しとどめる。

自分が彼女に接触することで、アイリを危険な目に合わせ、悲しい想いをさせる可能性が十分にある。

真犯人に殺された母のように、

自分に関わることで、アイリにも命の危険が及ぶことも考えられる。

悟はアイリとは「関わらない人生」を歩むことを決めた。

アイリに一人、さよならを言って、再び自分の足で歩き始める。

 

八代の罠「さざんかの集い」

西園=八代の秘書である葛西が、悟の入院する病院にイベントポスターを持参した。

「リハビリをがんばっているあなたと小学生の交流会」と銘打たれたそのイベントには、

八代の罠が仕掛けられていた。

 

「僕だけがいない街」40話「待ち焦がれた未来 2005.08」の考察

ケイタと澤田は、未だ姿を現さない真犯人の後姿を懸命に追いかけていた。

真犯人が北海道で起こした事件はすでに時効を迎えてしまった。

時効が成立していない2001年6月に千葉県で起きた事件に、最後の望みを託している。

この事件は他と毛色が異なり「わかりやすい容疑者がいない」ことに二人は着目していた。

真犯人がミスを犯したのか、そもそもこの事件は関係がないのか。

新たな事件の発生を待つ訳にはいかない二人は、この事件にすがるしかなかった。

 

さざんかの集い。新たなる事件のプロローグ

新しい事件はすでに起ころうとしていた。

リハビリ中と小学生の交流を目的とした「さざんかの集い」なるイベントに悟を連れて行こうと、

同じ病院の入院患者だった久美が佐知子に提案する。

佐知子が久美の母親と主治医に許可をとり、皆でイベントに参加することが決定した。

 

ケンヤがやってきて、悟と話をする。

さざんかの集いの件を聞き、ケンヤは警鐘を鳴らした。

悟は「15年間眠って目覚めた奇跡の男」として全国的な有名人。

当然、犯人もそのことは知っていると考えるべきだろう。

「お前にはいつどんな危険が降りかかってきても不思議じゃない」

と悟に忠告するが、

「わかってるさ。けど、コソコソ逃げ隠れして暮らしていたらきっと悔いが残る」

「僕は自分が目立つくらいで丁度よいと思ってるんだ」

「僕らは勝ったり負けたりしながら真犯人と長い間戦ってきた。途中で投げ出したくないんだ」

と自らの心情を吐露する。

悟は、自分が目立つことで、真犯人を引っ張り出すくらいの覚悟があると語る。

だが、「真犯人の思い通りにはさせない」と決意を新たにする。

「終わらせよう 僕らの手で」

悟とケンヤは、改めて誓った。

 

西園学の待ち焦がれた未来

市議会の経済企画委員長「西園学」は、待ち焦がれていた。

かつて、彼に「歓喜と戦慄」をもたらしたハムスター「スパイス」は「出会って二年」ほどで死んだ。

八代少年は「強い喪失感に襲われたが涙は出なかった」という。

彼は考えた。

「死」とは何だ?

彼が出した結論は、「肉体的・精神的に満たされない状態」のこと。

「リスクも無く平穏に暮らす今、この瞬間こそが僕にとって死そのものだ」

八代少年は、自分に対しても他人に対しても「生への執着が乏しかった」。

スパイスは「刺激をもたらす」という一点において、八代と生を結び付けていた存在だった。

スパイスに代わる「代償行為」を求めた八代は、「僕の為にある他者の死」をむさぼり始める。

兄を殺し、そしてターゲットは少女へと移行していく。

精密に、そして冷酷に計画を遂行し、必ず自分ではない犯人を仕立て上げて、自らは「自由と生」を謳歌した。

 

そこに現れた「他者の死に抗う者」が悟だった。

自らの計画を阻止しようとする悟という存在は、八代にとって刺激であり、戦慄だった。

それを感じた八代は、悟と対峙することに「生」を見い出した。

そして、殺したはずの悟が死の淵から戻ってきた時、八代はスパイスの時以上の「衝撃を感じた」という。

八代に言わせれば「悟は僕に生の喜びを与える者」だった。

八代はもう一度、死に抗う悟の姿を見たいと願っており、

そのための計画を着々と進めていた。

 

八代は市議会議員の身分を隠し、「さざんかの集い」に自らも参加する。

彼がワゴンに積みこんだ荷物の中には、ガムテープやロープ、手袋に練炭が入っていた。

八代は、参加した知り合いらしい年配の女性から「古賀さん」と呼ばれていたが、詳細は不明である。

このイベントで、八代が悟に対して、なにがしかの攻撃を仕掛けてくることは間違いない。

悟の運命やいかに。

 

8巻の発売が待たれる。

 

「僕だけがいない街」7巻 総括

やはり、アイリや悟がアルバイトをしていた店に出入りし、

店長とつながりがあった市議会議員「西園学」こそ真犯人でありシリアルキラー・八代学だった。

彼がどうやって苗字を変え、市議会議員になったのかは未だ謎だが、

悟を追いかけて、この街にやってきたことは間違いない。

彼は悟に対して執着し、彼を追い続けることが「生の喜び」となっていた。

 

自らの失われた記憶に「真犯人につながる真実」があることは間違いないと感じている悟は、

その解明のカギであるアイリとの接触を試みるが断念。

アイリの安全を考えた上で、彼女との関係を断ち切ることを選んだ。

陳腐な表現ではあるが、悟とアイリの間には「運命」に基づいた確かな結びつきがある。

それは、ある意味、悟と八代の間にもあるものかも知れない。

悟とアイリは、お互いにひきつけあう存在だ。

近い将来、彼らはまた再び、必ず出会うことになるだろうのだろう。

彼らが出会うこと、分かり合いこと、記憶の奥底で眠っている「そこにあるべきだった時間」を取り戻すことが、新しい未来へと進むための大きな手掛かりとなるはずだ。

 

八代の動きは速い。

自らの欲望を達成しようと、すぐさま行動に移した。

恐るべき知恵を持つ・真性の犯罪者に対して、未だ万全ではない悟は立ち向かうことができるのだろうか?

唯一の救いは、ゴッドマザー・佐知子がそばについていることだ。

 

漫画「僕だけがいない町」8巻感想ネタバレ 悟が果たした使命と八代学の真実

僕だけがいない街(8)<僕だけがいない街> (角川コミックス・エース)

時間逆行型ミステリーとして話題になった「僕だけがいない町」が8巻でついに完結した。殺人鬼・八代と記憶を取り戻した悟が最後の対決に挑む。

ちょうどよい長さでフィナーレを迎えた「僕だけがいない街」

物語は大きく深く広がっていくことで、その面白さを増し、中毒とも言える好奇心を沸き立たせる。

しかし、その大きく広げたふろしきを最後にしっかりとたたむことができないと、話題の超大作は一転、史上最大の駄作にもなりえるのである。

出版社の意向なのか、作者の計画なのか、あまりにも長大になりすぎ、完結までに時間のかかっている漫画作品は、結局は人気・面白さのピークからどんどん下降していき、最終回の頃にはこれまでの歴史が「過去の栄光」になってしまう場合も少なくない。

小生としては、漫画は5〜10巻、多くても15巻程度で完結するものが、よりベストであり、名作の可能性を高めると考えている。

例えば、寄生獣(10巻)などがそのよい例だろう。

もちろん、最初から物語の骨格がしっかりとしており、スタートとゴールが破綻なくひとつながりになっている「鋼の錬金術師」(27巻)など、例外的な作品もあるが、

「長すぎる漫画は、結局、駄作として終わる」という法則は、間違っていないと思っている。

その意味で、「僕だけがいない街」は、8巻という適切な長さで、物語というふろしきを無事にたたみきったといえるだろう。

殺人鬼・八代VS未来から来た男・悟

すべての記憶を取り戻した悟は、あえて八代学の計画に乗る。

キャンプ場で、必ず八代は何かを仕掛けてくる。

それは、同行するクミや悟自身に対する「殺人」であるのは明白だ。

悟はケンヤと計画を立て、八代逮捕を実現するために奔走する。

吊橋の上で、ついに再会を果たした八代学と悟。

彼を待ちわびていた八代、そして、自らの使命を果たそうとする悟。

二人の時空を超えた闘いが、ついに最終局面を迎えた。

自らの使命を果たしに来た悟

すべての記憶を取り戻した悟は、犯人は八代学だと喚くこともなく騒ぐこともなく、ただ、自らの使命を果たし、「終わらせること」を決めた。

「すべてを終わらせに来たよ、八代先生」

吊橋で八代と顔を合わせた悟の言葉、これがすべてを物語っている。

八代の想像を期待を超えて、その先を歩く悟に、八代は興奮すら覚えていた。

小学生時代と同じ「他者の死に抗う」悟を、八代は歓迎すると同時に恐れていた。

悟の中にあるのは「やり遂げたい」という意志。

かつて、雛月を死という運命から救ったその意志。

志半ばで八代によって中断はさせられたものの、悟は死の淵から舞い戻り、自らの使命=「八代学の犯罪をストップする」を果たすために、「前に踏み込む覚悟」を持って、前進した。

探していた答えを見つけた八代

八代が悟に対して特別な感情を持ったのは、自分の計画をことごとく邪魔する彼の行動力と頭脳に対する畏怖と同時に、「どうやっても自分の想像の上を行く、悟という未知の存在」に対する大きな謎が原因だった。

その謎の答えは、悟が実はリバイバルによって3度も小学生時代を経験している「未来人」であるというものだが、ついに八代は悟の口から、その事実を伝えられる。

「信じるよ、悟」

積年の疑問が氷解した八代は、悟の言葉を素直に受け入れる。

殺人鬼・八代学の最期

「やるべきことはすべてやった」であろう八代に思い残すことはなかった。

最期に、悟の生命と自分の生命を手に入れることで、彼の計画は完遂される。

吊橋に火をつけた八代だったが、彼は一つ読み違えていた。

悟の「前に出る推進力」は常識を超えており、

彼は松葉杖をついている状態では考えられないパワーで八代にタックルし、一緒に川底に落ちていった。

水中から引き上げられた八代の頭から「蜘蛛の糸」はきれいに消えていた。

悟が取り戻した運命の出会い

人生を取り戻した悟にもう一つの運命が近づいてくる。

殺人鬼・八代学はすべての犯行を全面自供し、確定死刑囚として収監。

悟は、人生をやり直すべく大検を取得、その後、紆余曲折あり、漫画家としてプロデビューする。

その作品はアニメ化されるほどの人気となり、彼はリバイバル前の自分をあっさりと超えてみせた。

降り積もり雪の中で、アイリとの再会を果たした悟。

これは運命という陳腐な表現で終わらせるには忍びない、複雑な魂の軌跡が大宇宙のある1点で遭遇した奇跡のようなものだろう。

リバイバルと「僕だけがいない街」

誰もが一度は思うこと。

「ああ、もう一度、人生をやり直せたら」

リバイバルの能力を持っていた悟は、それを実現した稀有な人間だ。

彼はリバイバルによって、自らの人生を「上書き録画」することに成功した。

その成果として、殺されるはずだった雛月加代を救い、八代を逮捕した。

その代償として、15年間という長い睡眠を余儀なくされた。

彼が眠っていた15年間=悟が世界に存在しなかった=「僕だけがいない街」である。

彼の行きた最初の人生は、決して順風満帆という訳ではなかった。

しかし、リバイバルを重ね、八代と対決し、自らを変えていくことで、悟の人生自体が大きく変革していった。

そこには、かつてはなかったケンヤとの深い友情があり、母・佐知子との通じあった心があり、運命の女性であるアイリとの出会いがあった。

止まっていた15年間は、決して無駄ではなかった。

新しい自分の歴史を手に入れた悟は、これからもその道の上を歩いて行く。

自分の意志で、その真っ白いキャンバスに、足跡を残していくのだ。

僕だけがいない街の次に読むべきマンガ

いずれも、「僕だけがいない街」が面白かったというマンガファンには自信をもっておすすめできるサスペンス&ミステリー系マンガとなります。

詳しくレビューしておりますので、ネタバレをしたくない方は閲覧にご注意を。


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